2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

アイヌと和人の和睦を目指す、悪党アイヌと蠣崎の娘の大冒険

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円かなる大地|武川佑|講談社

円かなる大地(単行本)武川佑(たけかわ・ゆう)さんの 『円かなる大地(まどかなるだいち)』(講談社)を紹介します。

著者は2016年、「鬼惑い」で第1回「決戦!小説大賞」奨励賞を受賞し、甲斐武田氏を描いた『虎の牙』でデビューしました。同作で2018年に第7回歴史時代作家クラブ賞新人賞を受賞。さらに2021年には、『千里をゆけ くじ引き将軍と隻腕女』(文庫化に際して『悪将軍暗殺』に改題)で、第10回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞した、気鋭の歴史小説家です。

本作は、第27回大藪春彦賞を受賞しました。2025年3月に行われた贈賞式では、選考委員の一人が「抜きんでていて、一読してこの作品を推そうと思った」と評価しています。
当サイトでは刊行時(2024年10月)に紹介しそびれてしまったため、遅ればせながら大藪春彦賞の受賞が決まった後に拝読しました。

物語のあらすじ

時は戦国、北の大地。
「とこしえの和」は成るのか――

謎多きアイヌの壮年・シラウキがクマの襲撃から助けた少女は、蠣崎氏の娘・稲姫だった。礼として居城に招かれるが、それが戦の思わぬ発端となってしまう。和睦の条件は「15日以内に仲介人となる安東氏を出羽国から連れ帰る」という困難なものだったが、それでも二人は「友との約束」を胸に、稲の許嫁、無類の女傑、女真族、恐山の怪僧など心強い協力者とともに、難題に立ち向かう。

(『円かなる大地』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)

読みどころ

アイヌを題材に蝦夷地を舞台にした歴史小説は少なくありませんが、和人がアイヌの人たちを殺し、彼らの暮らす土地を奪ったり、漁場などで搾取したりという、和人による征服の歴史が描かれることが多く、和人とアイヌの対立という形で描かれることが多かったと思います。

本書は、戦国時代、天文十九年(1550)年。
「悪党(ウェナイヌ)」と呼ばれる壮年のアイヌ・シラウキが、人食い熊に襲われた、大館の城主蠣崎季廣(すえひろ)の次女・稲を助けるところから物語が始まります。ところが、御礼として居城に招かれたシラウキらアイヌの風習を、季廣ら和人は無礼として、戦いに発展します。

稲を人質にして、蠣崎の館を脱出したシラウキ。アイヌと和人の戦いを和睦させるには、蠣崎氏の主家の安東舜季(きよすえ)を仲介人として連れてくるしかありません。

軍事力に劣るアイヌが持ちこたえられるのは15日間。シラウキと稲は、蝦夷ヶ嶋(現在の北海道渡島地域)から陸奥国糠部郡(現在の青森県むつ市)から浪岡御所(青森県青森市浪岡)を経て、出羽国檜山城(現在の秋田県能代市)まで、延べ320キロメートルに及ぶ大冒険行に挑みます。

この旅に加わるのは、稲の許嫁・下国師季、泊村を支配する女傑・小山悪太夫、女真族の勇士・アルグン、恐山の曹洞宗の僧・俊円、それぞれ事情をもつ者たちです。
シラウキと和人との過去の交流と、悪党と呼ばれるようになった事情も明らかにされていきます。

旅先で待ち構えている騒動や事件の数々を。ロールプレイングゲームのようにクリアしていき、仲間の絆を深めていくロードノベルにハラハラドキドキさせられます。

しかしながら、本書は痛快な読み味の一方で、和人同士の戦とは異なる、和人とアイヌの戦いの苛烈さと非情さ、それらを経て醸成されたアイヌとの和睦の尊さをきちんと描いていることにも注目したいです。

千年語り継ぐ物語の後に記された、三つの引用文の重みがズシリと胸に残りました。

今回取り上げた本



書籍情報

円かなる大地
武川佑
講談社
2024年9月30日第1刷発行

装画:禅之助
装幀:浅野良之(studioA)

目次:
序 永正9年(1512)
第一章 四ツ爪とシラウキ  天文19年(1550)3月
第二章 シリウチの戦い  天文19年4月
第三章 エサウシイ  享禄2年(1529)~天文5年(1536)
第四章 セタナイヘ  天文19年4月
第五章 宇曽利郷恐山  天文19年5月
第六章 美しい山の麓  天文5年~天文6年(1537)
第七章 浪岡御所  天文19年5月
第八章 イオマンテ  天文19年5月
終章 天文19年6月~

本文396ページ
書き下ろし

武川佑|時代小説ガイド
武川佑|たけかわゆう|時代小説・作家1981年神奈川県生まれ。立教大学文学研究科博士課程前期課程(ドイツ文学専攻)修了。書店員、専門紙記者を経て、2016年、「鬼惑い」で第1回「決戦!小説大賞」奨励賞を受賞。2017年、『虎の牙』でデビュー...