2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

不正を憎む、裄沢の上申書が南北の奉行所の対立に発展

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『北の御番所 反骨日録【十二】 南北相克』|芝村凉也|双葉文庫

北の御番所 反骨日録【十二】 南北相克元日に発表した2024年の時代小説ベスト10【文庫書き下ろし部門】で、芝村凉也(しばむらりょうや)さんの文庫書き下ろし時代小説「北の御番所 反骨日録」シリーズを第3位に選びました。同シリーズは2023年のベスト10では第1位にランクインしており、主人公・裄沢が隠密廻りの仕事に慣れ、ますます痛快な活躍を見せてくれます。シリーズファンにとって、今回も期待を裏切らない内容となっています。

『北の御番所 反骨日録【十二】 南北相克』は、シリーズ最新刊です。とはいえ、刊行から2カ月が過ぎてしまい、ご紹介が遅くなってすみません。

あらすじ

流行病で夫婦が亡くなり、2年前に廃業した門前仲町の蒲団屋・橘屋。幼い子どもたちが遺され、周囲の商家が見世の後片付けを手伝いました。しかし後になり、橘屋の遠縁を名乗る者が大昔の借用証文を持ち出し、南町奉行所に訴え出たとのこと。橘屋の見世仕舞いを手伝った深川の扇屋錦堂の主に呼び出された北町の隠密廻り・裄沢広二郎は、裁きを下す南町の吟味方与力に疑念を抱く錦堂から相談を受けます。やがて、この一件が南北両奉行所を揺るがす大騒ぎへと発展していきます――。
痛快時代小説シリーズ第十二弾の幕開けです!

(『北の御番所 反骨日録【十二】 南北相克』カバー裏の紹介文より抜粋・編集)

本書の読みどころ

裄沢は、かつて助けた深川の扇屋・錦堂から厄介事を相談されます。錦堂ら周辺の商家が手伝った橘屋の見世の処分が、後になって橘屋の親戚を名乗る者の訴えによって揉め事に発展。しかも担当するのは何かと噂のある南町の吟味方与力という厄介な相手です。

南町の与力同心が絡む案件に北町が口を挟むのは、越権行為と見なされかねません。不正が絡む案件でも、組織としてのタブーを破ることになれば、両奉行所全体の反目に発展する可能性があります。私生活でつながりの深い南北奉行所の関係性がこじれた場合、その怒りや恨みは一層根深いものとなるでしょう。裄沢は、このような組織対組織のタブーにどう挑むのか――その過程が本作の見どころの一つです。

また、奉行所内での業務の細やかな描写も本書の魅力です。南北奉行所は月番制で案件を交代していますが、すべての業務がそうではなく、米の価格変動を取り締まる「市中取締諸色調掛」は北町が専任、一方で「御肴青物鷹餌鳥掛」の権能は南町奉行所に付託されています。この細かな業務分担が、物語の中で重要な伏線として活きています。

本作は単なる捕物小説ではなく、三廻り同心(定町廻り・臨時廻り・隠密廻り)だけでなく、内勤の役人や奉行の秘書役である内与力も登場する「奉行所小説」としての面白さを存分に味わえる一冊です。こうした新しいスタイルが、シリーズの独特な魅力となっています。

さらに、本作では南町奉行として市井の噂話を綴った随筆『耳嚢』の著者としても有名な根岸肥前守鎮衛が登場する点も注目です。

裄沢の知恵と信念が光る一編。鬼神のごとき裄沢の推理を堪能できる、期待を裏切らない快作です。

今回取り上げた本


書誌情報

北の御番所 反骨日録【十二】 南北相克
芝村凉也
双葉社・双葉文庫
2024年12月14日第1刷発行
カバーデザイン・イラスト:遠藤拓人

●目次
第一話 菓子屋の由来
第二話 南北相克
第三話 定町廻り同心・内藤小弥太

本文304ページ
文庫書き下ろし

芝村凉也|時代小説ガイド
芝村凉也|しばむらりょうや|時代小説・作家1961年宮城県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2011年、「返り忠兵衛 江戸見聞」シリーズにてデビュー。時代小説SHOW 投稿記事『迷い熊帰る 長屋道場騒動記(一)』|心優しき巨躯の剣士「迷い...