一遍踊って死んでみな|白蔵盈太|文芸社文庫
白蔵盈太(しろくら・えいた)さんの『一遍踊って死んでみな』(文芸社文庫)が、本棚に新たに加わりました。
著者の白蔵さんは、2020年に「松の廊下でつかまえて」(文庫化の際に『あの日、松の廊下で』に改題)で第3回歴史文芸賞最優秀賞を受賞してデビュー。現代の視点で歴史上の事件や人物を描く新感覚の歴史時代小説を次々に発表し、多くの読者から支持を集めています。
昨年の代表作である『実は、拙者は。』(双葉文庫)は、2024年の時代小説ベスト10【文庫書き下ろし部門】(「時代小説SHOW」)でも第2位に選んだ傑作です。
物語のあらすじ
家族も財産もすべてを捨て、阿弥陀仏の導きに従う一遍は、日本全国を遊行する。
念仏を唱えながら床板を踏み鳴らす僧たちの激しいリズム、加速する念仏の声、上昇する心拍数を表すような鉦の音――。時宗が繰り広げるパフォーマンスは、見る者の心を鷲掴みにし、娯楽の少ない鎌倉時代に刺激と喜びを与えていました。「南無阿弥陀仏を唱えればわかる。念仏はロックだ!」
琴線に触れる度胸の声と激しいリズムに魅了され、一挙一動から目が離せなくなる――。破天荒かつ繊細な捨聖、一遍上人の物語。(『一遍踊って死んでみな』カバーyらの紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
著者は一遍の生き様を知ったとき、「すげえロックな生き方だな」と感じたことが、本書執筆のきっかけだとあとがきに記しています。ロックを愛する著者が、一遍の生き様を洋楽CDのライナーノーツや音楽雑誌風に描き上げた、新しいタイプの歴史小説です。
物語は、岩手県北上市で暮らす18歳の高校生・佐々木弘之(ヒロ)が鎌倉時代(1280年)にタイムスリップするところから始まります。寺の老住職に拾われたヒロは、大好きな音楽がないことから、欲求不満を抱えながら寺での生活に耐えていました。
3カ月後、遊行の途中で村にやってきた一遍上人と出会います。一遍は、「すべての人が救われる」という念仏を広めるべく、全国を布教していました。その布教活動は、踊り念仏というパフォーマンスを伴うもので、地方の武士や庶民の心を掴んでいきます。
「一遍踊って、死んでみな!」
特設舞台で繰り広げられる踊り念仏に、ヒロは衝撃を受け、やがて自らも舞台で踊りたいと願うようになります。
ロックコンサートさながらの熱狂的な踊り念仏の描写に圧倒され、気づけば物語の世界に引き込まれていました。
Chapter.2「ニュー・ウェーブ・オブ・カマクラ・ブッディズム(NWOKB)」では、鎌倉新仏教をロックテイスト満載で解説しており、その文体は中高生男子が読んでいた音楽雑誌を彷彿とさせるノリです。
読んでいて懐かしさを覚えると同時に、時代小説でこれほど強くロックを感じたのは天野純希さんの『桃山ビート・トライブ』以来のことで、うれしい驚きがありました。
今回取り上げた本
書籍情報
一遍踊って死んでみな
白蔵盈太
文芸社・文芸社文庫
2024年12月15日初版第一刷発行
装画:遠藤拓人
デザイン:谷井淳一
目次:
プロローグ
Chapter.1 戦慄の踊り念仏
Chapter.2 ニュー・ウェーブ・オブ・カマクラ・ブッディズム
Chapter.3 デスロード・トゥ・カマクラ
Chapter.4 聖地巡礼――はるかなる空也
Chapter.5 捨聖
エピローグ 一遍踊って死んでみな
あとがき
本文245ページ
文庫書き下ろし