2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

平安時代の富士山噴火で、大災害に遭った人々の苦悩と奮闘を描く

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『赫夜』|澤田瞳子|光文社

赫夜澤田瞳子(さわだ・とうこ)さんの歴史小説、『赫夜』(光文社)をご紹介します。

2024年、元日の能登半島地震は、正月の浮かれた気分を一掃する出来事でした。あれから1年が経ち、被災地の復興の遅れが気になる中、私たちには微力でもできることを続けることが求められています。

本書は、2023年1・2月合併号まで「小説宝石」に連載された作品で、能登半島地震発生前に執筆されたものです。
澤田さんは、奈良時代の疫病流行を描いた『火定(かじょう)』でも、新型コロナウイルス流行前に時代小説を通じて警鐘を鳴らしていました。『火定』によって、コロナ禍の中で冷静に対応するヒントを得た方も多いのではないでしょうか。本書も、未知の災害を前に歴史に学ぶ重要性を再確認させてくれます。

あらすじ
富士山、噴火。
それでも人は、生き続けねばならぬのだ。

延暦十九年(800年)、駿河国司の家人・鷹取(たかとり)は、軍馬を養う官牧で不遇な日々を送っていました。ある日、横走の市に出かけた彼は、富士ノ御山(富士山)から黒煙が立ち昇るのを目撃。降り注ぐ焼灰にまみれて意識を失います。

一方、官牧では、近隣の郷人や遊女たち避難民を受け入れ、混乱が拡大。灰に埋もれた郷では盗難騒ぎが起こり、不安、怒り、絶望が渦巻きます。そんな中、京から蝦夷征討のために必要な武具作りを命じられる鷹取。地方の不遇に歯噛みする彼は、決断を迫られることに――。

(『赫夜』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)

読みどころ

本作の舞台は、延暦十九年(800年)、平安時代初期。六年前に長岡京から平安京に遷都されたばかりの時代です。主人公の鷹取は、駿河国司・大中臣伯麻呂(おおなかとみ・はかまろ)に従属する家人(けにん)。賤民という身分から抜け出せず、現在の境遇に不満を抱えながら生きています。

鷹取は軍馬を養う官牧・岡野牧で働きつつ、富士山噴火の災害と向き合い、避難民たちとともに苦難を乗り越えていきます。焼灰が降り注ぐ様子や、噴火による甚大な被害の描写はリアルで、災害の恐ろしさが生々しく伝わってきます。

避難生活が続く中、被災者たちの心理も次第に変化していきます。焼灰を片付けて元の暮らしを再建する者、新天地を求めて故郷を捨てる者、さらには災害に乗じて盗みを働く者も現れます。

岡野牧には、馬を育てる駒人(こまんど)や安久利(あぐり)、宿奈麻呂(すくなまろ)、横走の郷人・猪列(いのつら)、遊女の賎機(しずはた)、山賊の夏樫(なつがし)ら、多彩な人物が身を寄せ、物語に深みを与えています。

当初は不満ばかりを抱えていた鷹取が、未曾有の大災害を経験し、被災者たちと共生する中で、少しずつ自らを取り戻していく――本作は魂の救済と再生の物語です。その過程が、心に響く読み心地を生み出しています。

本書の魅力は、富士山噴火という大災害を描くだけでなく、坂上田村麻呂による蝦夷征討を巧みに組み込んでいる点にもあります。岡野牧で育てられた軍馬が田村麻呂の愛馬となり、避難民たちが武具作りを命じられるなど、駿河という地理的背景を活かした物語構成が見事です。

さらに、本書は全冊著者直筆サイン入りという画期的な試みで制作されました。「望む方に、望む本が届くように。本の平等性を守りたい」という著者の願いが込められた特別な一冊です。

歴史小説の醍醐味を存分に味わえる本書を、ぜひ手に取ってみてください。

今回ご紹介した本


書籍情報

赫夜(かぐよ)
澤田瞳子
光文社
2024年7月30日 初版1刷発行

装画:宇野信哉
装幀:高柳雅人

目次
第一章 富士ノ御山
第二章 烟気暗瞑
第三章 赤気、燎たり
第四章 流れ下るもの
第五章 新たなる日々
第六章 夜明け

本文449ページ
「小説宝石」2021年6月号~2023年1・2月合併号掲載作品を加筆修正したもの。

澤田瞳子|時代小説ガイド
澤田瞳子|さわだとうこ|時代小説・作家1977年、京都府生まれ。同志社大学文学部卒業、同大学院博士前期課程修了。2010年、『孤鷹の天』でデビューし、同作で第17回中山義秀文学賞を受賞。2013年、『満つる月の如し 仏師・定朝』で第2回本屋...