菊の剣|天津佳之|PHP研究所
天津佳之(あまつ・よしゆき)さんの『菊の剣(つるぎ)』(PHP研究所)が、私の本棚に新たに加わりました。
著者の天津さんは、2020年に『利生の人 尊氏と正成』で第12回日経小説大賞を受賞し、2021年に同作で単行本デビューを果たしました。さらに、2023年には「政治家」としての菅原道真に光を当てた『あるじなしとて』が第12回日本歴史時代作家協会賞新人賞候補となるなど、今注目の歴史小説家です。
本書『菊の剣』は、鎌倉幕府執権・北条義時に討伐の兵を挙げた承久の乱の首謀者である後鳥羽上皇と刀鍛冶たちの物語です。
物語のあらすじ
「朕に鍛冶の業を教えよ」
新たなる神剣を作るべく、後鳥羽院によって則宗、延房、久国ら御番鍛冶が各地から集められた。共に剣を鍛える中で、“すめらぎ”たらんとする院の想いを知った刀鍛冶たちは、その期待に応えようとするのだが……。
承久の乱を起こして鎌倉幕府に敗れ、この国の政を武家のものにした「暗君」とされる後鳥羽院の真の姿を、刀鍛冶たちの視点から描いた歴史小説。
(『菊の剣』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
壇ノ浦の戦いで兄・安徳帝とともに海底に沈んだ三種の神器の一つ、神剣。「正統な天子であれば神器は必ず帰る」という理屈で皇位を継いだ後鳥羽帝でしたが、神剣はついに見つかりませんでした。
虚器の帝と謗られ、関白・藤原兼実や権大納言・源通親に政の実権を奪われる中、後鳥羽院は正統たる治天を実現すべく、文武を極めていきます。そして欠けている神剣を補うため、自ら新たな神剣を作ることを決意しました。
刀鍛冶たちを摂津国水無瀬の離宮に招き、「朕に鍛冶の業を教えよ」と命じた後鳥羽院。これは単なる技術の伝授に留まらず、実際に鍛刀の作業に加わるというものでした。
「小さき者たちが小さきままに集い、大輪の花となる」――菊の花を愛し、“すめらぎ”を目指す後鳥羽院と刀鍛冶たちの絆を描いた連作短編集です。
今回取り上げた本
書籍情報
菊の剣
天津佳之
PHP研究所
2025年1月8日第1版第1刷発行
装丁:芦澤泰偉
装画:大竹彩奈
目次:
序 神器なき“すめらぎ”
異形の治天 備前国則宗
戈を止める也 粟田口則国
逆輿 備前国吉房
祈りの剣 粟田口藤四郎吉光
終 “すめらぎ”の菊
参考文献
本文350ページ
「わいわい歴史通信」(発行:わいわい歴史通信編集委員会)第6号(2022年4月)~第9号(2023年1月)に連載されたものを大幅に加筆・修正したもの