頭の大きな毛のないコウモリ 澤村伊智異形短編集|澤村伊智|光文社
澤村伊智(さわむら・いち)さんの『頭の大きな毛のないコウモリ 澤村伊智異形短編集』(光文社)が私の本棚に新たに加わりました。
本書は、「禍(わざわい) または2010年代の恐怖映画」など、8つの短編を収録した短編集です。
怖がりで、子どもの頃からホラーは苦手でしたが、澤村さんの『斬首の森』は不思議と大丈夫というか、むしろ好きな部類の作品です。ゾクゾクするような怖さがありつつも、続きが気になりすぎて、ページをめくる手がもどかしくなるほど一気に読んでしまいました。それでも、なぜ澤村さんのホラーはこんなにも面白く読めるのでしょうか?
物語のあらすじ
日常は檻だ。普通の人々は敵だ。だからホラーを、怪談を。8つの異形の物語を。
ホラー映画撮影スタッフを襲う悪夢のような事件。
元アイドルのバスツアー参加者たちが語る戦慄の一夜。
保育士と母親の連絡帳から浮かび上がる歪んだ日常。
小学生時代の不穏な事件に隠された薄気味悪い符合。恐れと禍いの最高到達点。
どこまでも不気味で、どうしようもなく愉しい、暗黒奇譚集。
(『頭の大きな毛のないコウモリ 澤村伊智異形短編集』表紙カバー帯の紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
本書には、低予算ホラー映画の撮影スタッフを襲う事件や、元アイドルのバスツアー参加者たちが語る戦慄の出来事、オタクの日常を描いた短編、さらにお年寄りや障害者など社会的弱者へのいじめをテーマにした物語など、現代的なテーマを扱った作品が収録されています。
読み進めるうちに、怖くて不可解な事件の世界にどっぷりと引き込まれていきます。それぞれの短編が独自の光を放つ中で、特に感心したのが表題作「頭の大きな毛のないコウモリ」です。保育士と母親の連絡帳、つまり乳幼児に関する交換日記が、ここまで恐ろしく感じられるとは思いませんでした。
さらに注目すべきは、本書の最後に収録された「自作解説」という名の短編です。著者はこの中で、「ホラーの本質は愛である」と高らかに宣言しています。
「世間から疎まれ、忌避された物事や存在への愛」を核にしたジャンルこそがホラーである、と澤村さんは述べています。そのため、澤村作品を読むと恐怖心や嫌悪感よりも爽快感を覚え、たまらなく惹かれるのかもしれません。著者が作品に込めた「愛」が、読む者の心に深く響いているのでしょう。
今回取り上げた本
書籍情報
頭の大きな毛のないコウモリ 澤村伊智異形短編集
澤村伊智
光文社
2024年12月30日初版1刷発行
装幀:坂野公一(welle design)
写真:Adobe Stock
収録作品
「禍(わざわい) または2010年代の恐怖映画」(初出:井上雅彦監修『ダーク・ロマンス 異形コレクションXLIX』光文社/2020年11月刊)
「ゾンビと間違える」(初出:井上雅彦監修『屍者の凱旋 異形コレクションLVII』光文社/2024年6月刊)
「縊(くびる) または或るバスツアーにまつわる五つの怪談」(初出:井上雅彦監修『ヴァケーション 異形コレクションLV』光文社/2023年5月刊)
「頭の大きな毛のないコウモリ」(初出:山口雅也監修『甘美で痛いキス 吸血鬼コンピレーション』二見書房/2021年2月刊)
「貍(やまねこ) または怪談という名の作り話」(初出:井上雅彦監修『秘密 異形コレクションLI』光文社/2021年6月刊)
「くるまのうた」(初出:井上雅彦監修『乗物綺談 異形コレクションLVI』光文社/2023年11月刊)
「鬼 または終わりの始まりの物語」(初出:井上雅彦監修『ギフト 異形コレクションLI』光文社/2022年4月刊)
「自作解説」(書き下ろし)
蛇足:本書で、ローマ数字で「L」が50を表すことを知りました。ちなみに、100は「C」で、500は「D」、1,000は「M」です。
本文281ページ