怒濤逆巻くも(上)|鳴海風|小学館 P+D BOOKS
鳴海風(なるみ・ふう)さんの『怒濤逆巻くも(上)(下)』(小学館 P+D BOOKS)が私の本棚に新たに加わりました。
P+D BOOKSとは
本書は、P+D BOOKS(ピー・プラス・ディー・ブックス)という、ペーパーバック書籍と電子書籍を同時に刊行するユニークな出版形態で発行されています。
このシリーズでは入手困難となっていた往年の名作を復刊しています。本書は、B6サイズ(四六判に近いが天地が6ミリ短いサイズ)で、カバーのないペーパーバック仕様という軽装で簡易な印刷を採用しています。そのため、リーズナブルな価格で手に入る点が特徴です。また、電子書籍も同時制作されており、多様な読書スタイルに対応しています。
本を全く読まない人が増える一方で、読書家の趣味嗜好が多様化する中、このような出版形態には注目したいところです。私自身も本書を通じてP+D BOOKSを初めて手に取りました。この形態が今後さらに普及していくことを期待しています。
本を全く読まない人が増えていく一方で、読書人の趣味嗜好も多様化する現在、注目したい出版形態です。とはいえ、私も本書で初めてP+D BOOKSに触れました。
Amazonのダイレクトパブリッシングの本と同じような形なので、今後増えていくことを期待しています。
本作は、和算(江戸時代の数学)を題材とした小説を多く発表してきた鳴海風さんの代表作『怒濤逆巻くも』の復刊です。これまで純文学の名作を中心に刊行してきた小学館 P+D BOOKSから、この幕末小説が発売されたことは、時代小説ファンとして非常にうれしく感じます。
物語のあらすじ
幕府船初の太平洋往復を成功に導いた男
――咸臨丸は蒸気を焚いて、午後三時三十分、浦賀を出航した。……しばらく木村も勝も甲板に立っていたが、風と揺れに耐えられなくなり、船室に降りていった。……友五郎と浜口が羅針盤をのぞいて針路を確認しあっているところへ、万次郎と福沢雪がやってきた――。
数学や測量に造詣の深い笠間藩士の四男・小野友五郎は、開明的な旗本の子・小栗忠順と出会ったことをきっかけに幕府の海軍伝習所に入所。やがて、遣米使節団を乗せるポーハタン号に咸臨丸が随行する際には、その航海長として、幕府初の太平洋往復を成功に導きます。
勝海舟や福沢諭吉といった著名人の陰に隠れ、スポットライトを浴びることのなかったテクノクラート(技術官僚)に光を当てた大作です。
(『怒濤逆巻くも(上)』表紙の紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
本作の主人公・小野友五郎(おの・ともごろう)は、笠間藩の低い身分の藩士の子に生まれながら、算術の非凡な才能を発揮し、幕府の天文方に出仕しました。その後、航海術を学び、安政七年の遣米使節団では咸臨丸の航海長を務め、太平洋横断の成功に貢献します。
友五郎の波乱に満ちた生涯とともに、西洋式の幕府海軍の成り立ちや咸臨丸での航海、横須賀製鉄所の建造など、幕末の技術革新を技術官僚の視点から描いた、長編の幕末小説です。
今回取り上げた本
書籍情報
怒濤逆巻くも(上)/怒濤逆巻くも(下)
鳴海風
小学館 P+D BOOKS
(上巻)2024年11月19日初版第1刷発行
(下巻)2024年12月17日初版第1刷発行
装丁:おおうちおさむ 山田彩純(ナノナノグラフィックス)
目次
(上巻)
第一章 開国への通
一 馬上の侍
二 衣通姫
三 長谷川道場
第二章 海軍黎明
一 長崎の女
二 長崎海軍伝習所
三 精霊流し
第三章 咸臨丸航米
一 別船仕立の儀
二 波濤を越えて
三 メーア・アイランド
(下巻)
第四章 幕末の星
一 蒸気軍艦国産
二 小笠原諸島回収
三 海棠の花
第五章 横須賀製鉄所
一 フランソワ・ヴェルニー
二 長州征伐
三 ストンウォール
第六章 暗転
一 大政奉還
二 十八万両搬出
三 水沼河原啾々
主な参考文献
(上巻)本文291ページ
(下巻)本文355ページ
『怒濤逆巻くも』(2009年・新人物往来社刊)を底本にしています。