華の蔦重|吉川永青|集英社
吉川永青(よしかわ・ながはる)さんの『華の蔦重』(集英社)が本棚に加わりました。
2024年の師走も1週間余りが過ぎ、2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の放送(放送開始日:2025年1月5日(日))がいよいよ近づいてきました。
蔦屋重三郎は寛延三年(1750年)に吉原で生まれ、寛政九年(1797年)5月に47歳で亡くなっています。安永二年(1773年)には、吉原大門手前の五十間道に書店を構え、吉原細見の卸売りと小売りを始めたと言われています。
大河ドラマでも、吉原細見を売り始めた若い頃から、亡くなるまでの半生が描かれると予想されます。この時代は江戸時代中期にあたり、田沼意次から松平定信へと幕政の実権が移り、革新的な重商主義から保守的な重農主義へと幕府の政策が大きく転換した激動の時代でもあります。
物語のあらすじ
豪華絢爛たる吉原が業火に包まれた明和九年。多くの人々が落胆する中で、江戸を再び元気づけようと心に決めた男がいました。彼の名は蔦屋重三郎。通称・蔦重と呼ばれた彼は、貸本屋に飽き足らず、地本問屋の株を取得し、自ら版元として次々に勝負に打って出ます。
「楽しんで生きられたら、憂さなんて感じないで済むんです」。彼が手掛けた面白い書物や美しい浮世絵は、江戸の世を明るく照らしました。その熱意は、山東京伝や喜多川歌麿といった人々の心を動かし、江戸の街を熱狂で包んでいきます。しかし、その行く手には様々な困難が立ちはだかり……。
(※カバー裏紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
著者の吉川永青さんは、2010年に『戯史三國志 我が糸は誰を操る』で第5回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、作家デビューされました。その後も、様々な歴史小説で文学賞の候補となり、2016年には『闘鬼 斎藤一』で第4回野村胡堂文学賞を受賞、2022年には『高く翔べ 快商・紀伊國屋文左衛門』で第11回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞されています。
三国志を題材とした小説から、日本の戦国や幕末を舞台とする骨太な歴史小説、さらには江戸時代の人物を掘り下げる作品まで、多彩なジャンルで活躍されている実力派作家です。
本書は、これまでに見たことがない斬新な書物や美しい浮世絵で、江戸の人々を楽しませた蔦屋重三郎の粋でいなせな半生記です。非凡な出版プロデューサーとしての彼の姿が描かれ、読者を魅了する一冊となっています。男の色気がダダ洩れの蔦重を描いた岡添健介さんの装画も本書の魅力をさらに引き立てています。
蔦重とその時代をテーマにした作品は、実力派作家たちによって次々と新作が発表され、注目を集めています。本書を通じて、ドラマの予習をするとともに、新たな読書の楽しみを来年一年、大いに満喫してみてはいかがでしょうか。
今回取り上げた本
書誌情報
華の蔦重
吉川永青
集英社
2024年12月10日第一刷発行
装幀:泉沢光雄
装画:岡添健介
目次
序章
第一章 ここから、始める
第二章 版元に、なる
第三章 荒波を、渡る
第四章 世を人を、思う
第五章 鐘が、鳴る
本文346ページ
初出
集英社文庫Web 2023年10月~2024年7月
「本バカ一代――花の版元・蔦屋重三郎」を改題し、大幅に加筆修正したもの