忠臣蔵の姫 阿久利|佐々木裕一|小学館文庫
佐々木裕一(ささき・ゆういち)さんの『忠臣蔵の姫 阿久利』(小学館文庫)が本棚に加わりました。
子どもの頃、年末になるとテレビで放送されていた「忠臣蔵」の影響からか、この時期には赤穂浪士の討ち入りを題材にした歴史時代小説を読みたくなるものです。
本書は、「浪人若さま新見左近」や「公家武者信平」シリーズで人気の佐々木裕一さんが、浅野内匠頭の正室である阿久利(後の瑤泉院)を主人公に描いた忠臣蔵小説です。
文庫書き下ろし時代小説の名手が忠臣蔵を題材にしたことは意外性がありましたが、著者が阿久利と同じ広島県三次市のご出身と知り、そのご縁に納得するとともに、一層興味が湧いてきました。
物語のあらすじ
勅使饗応(ちょくしきょうおう)に絡む高家筆頭・吉良上野介の頼みを断ったこと、そして火事場でのある行いから、五代将軍徳川綱吉の側近である柳沢保明の不興を買った播磨赤穂藩主・浅野内匠頭。広島三次藩から嫁いだ阿久利の幸せは、江戸城松の廊下で内匠頭が吉良への刃傷に及んだことで、終わりを迎えます。
阿久利は亡き夫の遺言を果たそうと、御家再興を幕府に訴えますが、その悲願は叶わず、御家断絶に至ります。一方、幕府の裁きに不満を抱いた国家老・大石内蔵助や剣豪・堀部安兵衛ら赤穂浪士は、阿久利の制止を振り切り、吉良邸への討ち入りを敢行。忠義を果たした浪士たちの行動を通じて、刃傷事件の真実が今、明らかにされます。権力に抗い続けた姫の生涯を描いた傑作です。
(※カバー裏紹介文より抜粋・編集)
ここに注目!
本書で特に楽しみな点は、浅野内匠頭が吉良上野介に刃傷に及ぶ以前の、内匠頭と阿久利の若き夫婦の日々が丁寧に描かれているところです。
また、内匠頭の切腹後に阿久利(瑤泉院)が果たした役割や、その思いに触れることができる点も見どころの一つです。瑤泉院という人物を通して、改めて赤穂事件について考え直す良い機会になりそうです。
既刊の単行本2冊(『忠臣蔵の姫 阿久利』『義士切腹 忠臣蔵の姫 阿久利』)を改稿し、合本した600ページ超の大長編である本作には、2冊分の面白さがぎっしりと詰まっています。ぜひ、この冬に手に取りたい一冊です。
今回取り上げた本
書誌情報
忠臣蔵の姫 阿久利
佐々木裕一
小学館・小学館文庫
2024年12月11日初版第一刷発行
カバーイラスト:こより
カバーデザイン:鈴木俊文(ムシカゴグラフィクス)
目次
離郷
江戸の母
姫御殿
森の良人
共に生きよう
いじわる
赤い空
婚礼の儀
初の大役
別れ
側室騒動
赤穂の金獅子
跡継ぎ
再会
黒い影
黄色い蝶
二度目の勅使饗応役
良人の様子
琴の音
三次藩下屋敷
赤穂城
瑤泉院
御家再興への道
赤い夜空
吉良家の罰
吉良家の罠
揺れるこころ
疑念
十左の本音
別れの盃
忠臣たちの消息
内匠頭への届け物
討ち入り
緊迫の引き上げ
赤穂義士
護持院への呼び出し
義士の息子
迷う将軍
椿の花
阿久利の願い
長い年月の果て
本文629ページ
本書は小学館から刊行された『忠臣蔵の姫 阿久利』(2019年12月)と『義士切腹 忠臣蔵の姫 阿久利』(2021年4月)を改稿して合本し、文庫化したもの。