孤城 春たり|澤田瞳子|徳間書店
澤田瞳子(さわだ とうこ)さんの歴史時代小説『孤城 春たり(こじょうはるたり)』(徳間書店)を書棚にお迎えしました。
帯には、「幕末を書くのは今回初めて。倒幕派、佐幕派という対比だけでは語れない、時代に翻弄された無数の人々の物語」との言葉が記されています。
幕末を舞台に、著名な英雄ではなく、激動の時代を懸命に生きた普通の人々に光を当てた群像劇。これまでの澤田さんの作品と同様に、深い人間描写が期待される一冊です。
あらすじ
借財10万両から蓄財10万両へ――備中松山藩の財政再建を描く、幕末群像劇
本作は、「財政再建の神様」と称された山田方谷(やまだ ほうこく)を中心に、藩の改革を背景とした物語です。わずか7年で赤字を黒字へと転じたその軌跡と、方谷が育てた有為の人材たちの奮闘を描きます。
幕末維新という激動期、主義主張を持たずただ日々を生き抜こうとする人々の姿も描かれ、既存の幕末小説とは一線を画しています。歴史の裏側に隠された新たなドラマを楽しめる作品です。
(『孤城 春たり』のカバー帯より抜粋・編集)
見どころ
1. 山田方谷を中心とした視点
山田方谷は「財政再建の神様」として知られていますが、小説の主人公として描かれるのは珍しいです。また、方谷の元で学んだ河井継之助(後の越後長岡藩家老)や、同志社大学の設立者・新島襄(七五三太)といった歴史的人物の姿も注目です。特に新島が海外渡航前にどのような人間であったのか、本作を通じて知ることができるのは大きな魅力です。
2. 幕末の「普通の人々」に焦点を当てる
幕末といえば、倒幕や佐幕の英雄たちが注目されがちですが、本作では歴史の大波に翻弄されながらも、主義主張を持たず日々の暮らしに励む「普通の人々」が描かれます。この視点は新鮮で、時代背景の奥深さを感じさせてくれます。
3. 経済と思想の観点から楽しむ藩財政再建の物語
「借財10万両から蓄財10万両へ」といった快挙が、どのような思想と実践によって成し遂げられたのか――現代のビジネスや経済の視点からも興味深く読める点がポイントです。
澤田瞳子さんの新たな挑戦となる幕末群像劇『孤城 春たり』。歴史の裏に隠された人間ドラマや、山田方谷を中心とした新たな視点が光る作品です。幕末ファン、歴史好き、ビジネス視点で物語を読みたい方まで、いろいろな読み方ができる歴史小説です。
今回取り上げた本
書誌情報
『孤城 春たり』
澤田瞳子
徳間書店
2024年11月30日初刷
装画:西のぼる
装幀:鈴木俊文(ムシカゴグラフィクス)
目次
第一章 落葉
第二章 柚の花、香る
第三章 飛燕
第四章 銀花降る
第五章 まつとし聞かば
本文474ページ
「山陽新聞」2024年2月3日号から12月10日号に連載したものを、単行本刊行にあたり大幅に修正したもの