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【報告】第七回細谷正充賞授賞式の取材レポート

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第七回細谷正充賞受賞のみなさまと細谷正充さん2024年11月20日(水)第七回書評家・細谷正充賞ならびに第五回書架の細充賞(一般社団法人文人墨客主催)授賞式が開催され、マスコミ取材としてご招待いただきましたので、その模様をレポートいたします。

会場は東京・神保町の出版クラブホール。受賞作家と担当編集者をはじめ、多くの作家や編集者、出版関係者が集い、受賞者を祝う華やかな雰囲気に包まれていました。

MCの三宅あみさん司会は、江戸講座の講師や老舗グルメツアーの案内、映画「十一人の賊軍」の長州ことば指導など、多方面で活躍するジャパネスクナビゲーターの三宅あみさんが務められました。会場では、受賞者5名と受賞作の担当編集者が紹介され、万雷の拍手の中で入場が行われました。

第七回細谷正充賞受賞作品紹介
第七回細谷正充賞受賞作品
饗庭淵(あえば・ふち)さん『対怪異アンドロイド開発研究室』(KADOKAWA)
宇野碧(うの・あおい)さん『繭の中の街』(双葉社)
黒木あるじ(くろき・あるじ)さん『春のたましい 神祓いの記』(光文社)
永嶋恵美(ながしま・えみ)さん『檜垣澤家の炎上』(新潮文庫)
野上大樹(のがみ・たいき)さん『ソコレの最終便』(発行:ホーム社、発売:集英社)

文芸評論家の細谷正充さんから、各受賞作について選考理由をお話しされました。

細谷正充さんの講評
細谷正充さん『対怪異アンドロイド開発研究室』
「ホラーのジャンルに収まらないSFの要素もある内容で、自立汎用AIを搭載するアンドロイド“アリサ”が怪異の調査に乗り出すがうまくいかなくて……という話。アリスの描写が素晴らしく、ホラーとSFのぶつかり合う中で、連作風ながら独自の物語世界を創り出した作者の才能を高く評価したい。」

『繭の中の街』
「著者を再確認できた作品だ。どういう作家かというと、「言葉の人」で、言葉に対するこだわりというのがすごくあって、それゆえに文章が非常に繊細に綴られていく。読み心地が良く、作品自体もバラエティに富んでいる。これはいい短編集だと思った。」

『春のたましい 神祓いの記』
「実話会談で活躍するベテラン作家で、今さら細谷正充賞をとも思ったが、読んでみたら民俗学ホラーだった。近年、民俗学ミステリーが流行っているが、ホラーにも効果的な手法だ。祭祀保安協会から派遣された主人公が、地方で途絶えようとしている祭祀をあるべき姿に戻そうという設定が秀逸だった。」

『檜垣澤家の炎上』
「横浜の豪商しかも女系家族に引き取られて、精神的なサバイバルをしながら成長していく話。ストーリーが波乱万丈で読みだしたら止まらなかった。火事に始まり火事に終わる物語で、作中では横浜を「火難の地」としているが、主人公の名前も「かな子」で、一人の少女が約束の地を見つける話としても読むことができた。」

『ソコレの最終便』
「終戦間近の満洲で装甲列車ソコレが巨大列車砲を積み込んで港まで走る、その間にいろんな人が乗り込んできたり、ソ連軍に追われたりという戦争鉄道小説だ。最後のエピソードが重いし、登場人物が必ずしも幸せになるわけでもないが、戦争と人間を見つめた著者の視点、志の高さを高く評価した。」

第5回書架の細充賞受賞者には、細谷さんから受賞者へは賞状と副賞が渡され、花束が贈呈されました。
また、それぞれの受賞作の担当編集者には、第5回書架の細充賞として、一般社団法人文人墨客の岩田健太郎理事より賞状と副賞の目録が渡されました。

受賞者スピーチ
続いて、受賞の言葉がありました。
饗庭淵さん饗庭淵さん
「ホラーというジャンルは、主人公の恐怖を通して読者も怖がるという側面があります。本作では恐怖心を持たないロボットを主人公にすることで、新しいアプローチを試みました。執筆中は“出オチ”にならないか不安もありましたが、こうして評価をいただけてとても嬉しいです。この受賞を励みに、今後も物語を探求していきたいと思います。」

宇野碧さん宇野碧さん
「私は神戸出身で、街そのものが自分の感性や作品に大きな影響を与えています。本作は、神戸という街を舞台に短編が響き合うような“音楽アルバム”のようなイメージで作りました。細谷さんから“言葉の人”と評していただいたことが特に嬉しいです。言葉には力があり、言葉が生む物語をこれからも紡いでいきたいと思います。」

黒木あるじさん黒木あるじさん
「長らく実話怪談の分野で執筆してきた私にとって、本作は初の単行本であり、東北地方を舞台にした初の試みでもありました。執筆中は新型コロナ禍の最中で、祭りが次々に中止される光景を目の当たりにし、“祀られる神々も寂しかろう”という思いが執筆の動機となりました。こうして作品が評価され、多くの方に読んでいただけたことを幸せに思います。」

永嶋恵美さん永嶋恵美さん
「以前に、あるパーティーで細谷さんから、別ジャンルで使っているペンネームで声を掛けられたのに驚きました。幅広いジャンルの本をたくさん読まれている人だと思いました。二十年以上のキャリアの中で、あまり挑戦してこなかったテーマに取り組んだ作品です。『好きなだけ書いていい』というオーダーを受けて全力で執筆し、5年の歳月をかけました。この受賞を機に、さらに新たな物語へ挑戦していきたいと思います。」

野上大樹さん野上大樹さん
「霧島兵庫名義で歴史群像大賞優秀賞を受賞してデビューしましたが、期するところがあって、ペンネームを本名の野上大樹にして再デビューした作品で細谷正充賞をいただけてホッとしました。この作品は第二次大戦をモチーフにした戦争小説であり、装甲列車隊が主役のロードノベルであり、冒険小説です。一つのジャンルの枠に収まらないカテゴリー横断的な作品です。本日の受賞の陰には編集者からのエンタメの圧力と的確なディレクションの助力があったことにも感謝しています。」

うれしさがストレートに伝わってくる、熱のこもった受賞者のみなさんのスピーチを聞いていて、改めて素晴らしい賞だと思いました。
受賞者みんなで細谷さんを囲んでのフォトセッションの後、担当編集者も入りなごやかな雰囲気の中で写真撮影大会となりました。

第七回細谷正充賞ならびに第五回書架の細充賞(一般社団法人文人墨客主催)授賞式

会場内には、過去の細谷正充賞受賞者の姿もあって写真撮影や歓談で、大いに盛り上げていました。。
本を愛し、ジャンルを超えエンタメ小説を盛り上げていこうという、多くの作家、編集者、出版関係者の交流の場にもなり、私も何人かと会話ができ、温かい気持ちになり、パワーをいただいて帰りました。

最後にアットホームで、素敵な授賞式を開催された主催者・参加者のみなさまに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました!

本日の戦利品
第7回細谷正充賞のおみやげ
授賞式では、名アンソロジスト・細谷正充さんが編纂された時代小説アンソロジー3冊や重版祈願の霊験ある代々木八幡のお守り、その他の記念品をいただきました。
・細谷正充編『ゆるし 朝日文庫時代小説アンソロジー』(朝日文庫)
・細谷正充編『史実は謎を呼ぶ 時代ミステリ傑作選』(中公文庫)
・細谷正充編『大江戸綺譚 時代小説傑作選』(ちくま文庫)
・代々木八幡宮のお守り
・ホリカフーズ「レスキューフーズ一食ボックス シチュー&ライス」
・大正製薬 リポビタン JELLY
・伊藤園 おーいお茶 ほうじ茶

■今回ご紹介した本







細谷正充編|時代小説ガイド
細谷正充|ほそやまさみつ|文芸評論家・書評家 1963年生まれ。 時代小説、ミステリーなどのエンターテインメントを対象に、評論・執筆。 自宅に17万冊という膨大な書庫を持つ蔵書家。 2018年より、優れたエンターテインメント小説5作品を選出...