『清少納言なぞとき草紙』|有馬美季子|徳間文庫
有馬美季子(ありま・みきこ)さんの最新文庫書き下ろし平安時代小説、『清少納言なぞとき草紙』(徳間文庫)のご紹介です。
有馬さんは、「はないちもんめ」シリーズ(祥伝社文庫)や「はたご雪月花」シリーズ(光文社文庫)で2021年に日本歴史時代作家協会賞シリーズ賞を受賞。その後も「お葉の医心帖」シリーズ(角川文庫)や「深川夫婦捕物帖」シリーズ(祥伝社文庫)などを次々と発表し、歴史ミステリーの人気作家として知られています。本作は、そんな有馬さんが初めて挑む平安時代を舞台にした作品です。
『清少納言なぞとき草紙』は、平安時代の才女・清少納言が「名探偵」として活躍する王朝ミステリー。大河ドラマ「光る君へ」で再び注目を集める清少納言が、数々の謎に挑みます。
宮中にいた頃から「勘働き」に定評があった清少納言。宮仕えを辞して東山月輪の小さな邸で静かに暮らす彼女のもとに、ある日、陰陽師の安倍吉平(よしひら)が訪れます。黒い犬が「生首」をくわえて走る怪事件や、「源氏物語」に絡む奇妙な出来事について、知恵を貸してほしいと頼まれる清少納言。次々と巻き起こる謎に、豊かな想像力と独自の推理で挑む痛快な平安ミステリー!
(『清少納言なぞとき草紙』カバー裏紹介文より抜粋・編集)
物語の舞台は寛弘四年(1007年)五月の早朝。
大内裏を大きな黒い犬が男の生首をくわえ、狂ったように走り回る衝撃の場面から始まります。その生首は近衛府の下級役人・堀河諸兄に似ていましたが、本人は無事に現場に駆けつけ、驚愕のあまり蒼白になって立ち尽くします。
生首の顔は、確かに堀河によく似ていた。ただ、目の色が明らかに違う。生首と堀河を見比べながら、近衛府の役人が呟いた。
「あの首は……もしや、貴殿の生霊か」
堀河は躰をがくがくと震わせながら、瞬きもせず犬を見つめる。堀河の顔色も、生首のそれと同じほどに、蒼白になっていた。(『清少納言なぞとき草紙』P.8より)
その後、堀河が忽然と姿を消してしまうという、さらに不気味な展開に…。
東山月輪で隠棲していた清少納言は、宮中で起こる怪事件の真相を明らかにするため、勘働きに優れたその才を発揮して調査を開始。
怪事件には「源氏物語」にまつわる謎が絡んでおり、謎の歌を残して急死した女房の秘密、花山法皇の死、さらには紫式部への脅迫状の謎までが浮かび上がります。
中宮定子を失い、少女・鈴音と愛猫・小玉と静かな生活を送っていた清少納言。
けれども、次第に刺激的な謎の数々に心を動かされ、町に出て事件の手掛かりを追い求めるようになっていきます。
その推理の妙味と知的好奇心にあふれた展開は、読者を引き込み、平安時代ならではのミステリー世界を楽しませてくれます。
「源氏物語」ゆかりの怪事件や、紫式部や藤原道長、藤原伊周といった歴史上の人物も登場し、「光る君へ」ファンにもおすすめの一冊です。
清少納言なぞとき草紙
有馬美季子
徳間書店・徳間文庫
2024年9月15日 初版
カバーイラスト:槇えびし
カバーデザイン:bookwall
●目次
序章
第一章 青い目の生首――《帚木》の後の事件――
第二章 女房が遺した真似歌――《紅葉賀》の後の事件――
第三章 花山法皇の怪死――《澪標》の後の事件――
第四章 狙われた紫式部――《若菜下》と《橋姫》の後の事件――
本文285ページ
文庫書き下ろし
■今回ご紹介した本