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父の仇を抱えた、乾勝之助の仇討ち稼業を描く痛快時代小説

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『品川宿仇討ち稼業』|とが三樹太|祥伝社文庫

品川宿仇討ち稼業とが三樹太さんの文庫書き下ろし時代小説、『品川宿仇討ち稼業』(祥伝社文庫)を紹介します。

本書の著者紹介によると、「一九五九年、大阪府岸和田市生まれ。大学卒業後、高校教師を経て、作家デビュー」とのことです。岸和田といえば「だんじり祭」が有名で、朝ドラ「カーネーション」の舞台としても知られていますが、私はまだ訪れたことがありません。同じ誕生年の作家としては、『岸和田少年愚連隊』の中場利一さんがいますが、著者とは別の方です。

また、大阪のおばちゃんをテーマにした小説『おばちゃんに言うてみ?』を昨年出版された作家の泉ゆたかさんは神奈川県生まれですが、現在岸和田市にお住まいだそうです。

仇討ち助太刀仕り候――浪人乾勝之助の稼業は頼まれて仇を探し、討つ手伝いをすること。実は勝之助自らも仇を探していた。勘定所の役人だった父太兵衛は、公金横領の汚名を着せられ殺害されたのだ。勝之助は稼業の傍ら下手人らしき元岸和田藩士志摩源次郎を追う。ある日、幼い姉妹の依頼に勝之助は動揺する。姉妹の仇は志摩その人で……。情に厚い快男児の活躍を描く1

(『品川宿仇討ち稼業』カバー裏の紹介文より)

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乾勝之助は、三河での武者修行を終え、定宿にしている品川宿の平旅籠百舌鳥屋に滞在していました。ある夜、近くの品川猟師町にある釣り小屋で、父・太兵衛が何者かに斬殺され、勝之助自身もその場にいた賊に襲われます。左肩に負傷を負い、賊を逃がしてしまいます。

父が殺された釣り小屋に戻った勝之助の前に、幕府の勘定所の勘定組頭である天木が現れ、勝之助の父がある藩の公金横領に加担し、証拠を隠滅した疑いがあると告げます。さらに、口封じのために殺害されたとし、釣り小屋の中を調べます。

「乾が横領の証を隠しておらぬか調べておる。見つからなければ、品川での定宿も、岡崎町の自宅も、あらためて調べなおす」
「父上はそんなひとではない。嵌められたのです。奸計だ。わからないのですか?」
 天木は、苛立たしげに、ふん、と嘲笑した。
「藩の側ではすでに証が出ておる。支配勘定の身でありながら汚いことをするとは、許すまじき不届き者。調べれば他にももっと膿が出てくるはずだ。かような悪人めは、いま頃は地獄で閻魔さまにもきついお調べを受けておるであろう」
 
(『品川宿仇討ち稼業』 P.24より)

父は死後に役儀召し放ちとなり、屋敷や家財は没収されました。しかし、藩側からの訴えや証拠しかなく、勘定所や父の関係先からは横領の証拠が見つからなかったため、勝之助や家族が無実を主張し続け、家の取り潰しにはなりませんでした。

そんな中、父を殺した下手人は泉州岸和田藩の勘定方・結城友左衛門とされていましたが、彼は東海道草津宿で追い剥ぎに遭い殺害され、横領された金も見つかっていないという状況です。
しかし、勝之助を襲った賊が、岸和田藩の用人・荻野将監の家人である志摩源次郎に似ていることが判明し、勝之助は品川宿で志摩が江戸に戻ってくるのを待ち構えます。

 傍らに、三尺(約九十センチ)ほどの縦長の木板を立て掛けてある。墨跡あざやかに、

  仇討ち助太刀 尋ね人探索 手伝い仕り候
  
 と書してあった。
 
(『品川宿仇討ち稼業』 P.31より)

勝之助は仇討ちの助太刀だけでなく、江戸市中で仇の探索も請け負う生業をしており、依頼者には前払いで金二朱、本懐を遂げた場合の報酬は一両という条件です。

看板を掲げて二年が経った頃、侍の姿をした十四、五歳の少女が勝之助のもとを訪れます。少女は雲州松江藩馬廻り役・戸井宗茂の娘・さちと名乗り、父とともに女敵討ちの途上だといいます。
敵は宗茂の妻、さちの母の千代。殿の小姓を務める生田尚春と駆け落ちしたとのことです。

勝之助が調査を進めると、意外な事実が明らかになり……。

勝之助の仇討ち稼業を描く痛快な物語に加え、父の仇討ちをめぐる連作としても展開されます。人情に厚い快男児の勝之助は、剣が強すぎないところがいいです。

登場人物たちも魅力的で、特に敵役となる志摩源次郎の存在感が、物語に適度な緊張感を与え、話を引き締めています。

著者があとがきで書かれているように、本作は江戸時代に刊行された書籍から着想を得て創作されています。第二章「かんのんやど」では、「宮城野・信夫の仇討ち」として知られる「姉妹達大礎(あねいもうとだてのおおきど)」をモチーフにしています。「宮城野・信夫の仇討ち」では田辺志摩(他の作品では志賀団七とも)が志摩源次郎のモデルです。

また、勝之助の幼馴染で南町奉行所の定町廻り同心・佐野九十郎や、裏社会の顔役となった弥蔵も登場し、勝之助を助けます。三人の友情が物語に爽快感を加えています。

勝之助の仇討ち稼業の次なる活躍を期待しながら、ページを閉じました。シリーズ化してほしい、痛快時代小説の誕生です。

品川宿仇討ち稼業

とが三樹太
祥伝社・祥伝社文庫
2024年9月20日初版第1刷発行

カバーデザイン:かとうみつひこ
カバーイラスト:中川学

●目次
序章
第一章 雨の永代橋
第二章 かんのんやど
第三章 仇討ちの果て
第四章 赤坂見附の決闘
第五章 品川宿本陣
作者あとがき

本文323ページ

文庫書き下ろし。

■今回取り上げた本

とが三樹太|時代小説ガイド
とが三樹太|とがみきた|時代小説・作家 1959年、大阪府岸和田市生まれ。 大学卒業後、高校教諭を経て、作家デビュー。 時代小説SHOW 投稿記事 →とが三樹太の本(Amazonより) ⇒時代小説作家リストへ戻る