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高級住宅街に隠された秘密とは? 現代社会を抉る警察小説

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『アイアムハウス』|由野寿和|幻冬舎

アイアムハウス由野寿和(ゆうや・としお)さんの現代ミステリー、『アイアムハウス』(幻冬舎)をご紹介いたします。

2022年12月に発表されたミステリー小説『再愛なる聖槍』で、読者に大きな衝撃を与えた著者のデビュー2作目が、ついに刊行されました。

デビュー作は、前代未聞の「観覧車ジャック」が起こったクリスマス・イブの一日を描いたサスペンスミステリーでした。
Amazonでは127件の評価を集め、4.7という高いスコアを獲得し、韓国版も発売されています。

【待望の韓国版が遂にリリース!】由野寿和氏の名作『再愛なる聖槍』、韓国の全書店やオンラインストアで11月20日より販売開始!
2022年に幻冬舎より出版されて話題沸騰中のミステリー小説『再愛なる聖槍』が、2023年11月20日(月)より韓国版をリリース。詳細をご紹介します。

世界遺産・藤湖のまわりを囲むようにそびえ立つ、静謐な佇まいの十燈荘(じゅっとうそう)。 晩秋、秋吉一家がそれぞれの“趣味”にまつわる形で惨殺され、息子の春樹だけが一命を取り留めた。 静岡県警の深瀬が捜査を進めると、住民たちの微妙な距離感、土地独特のルールが浮かび上がる。 そして実は深瀬は、16年前の「十燈荘妊婦連続殺人事件」にも関わっていく――。
(『アイアムハウス』カバー帯の紹介文より)

2023年10月10日の朝、静岡県藤市の高級住宅街・十燈荘にある秋吉家で殺人事件が発生したという通報が警察に入りました。十燈荘は、静岡中央市と藤市の境目に位置する風光明媚な観光地で、世界遺産・藤湖の絶景を高台から一望できる高級別荘地として知られています。

この地に住むのは、各業界で成功を収めた人々や資産を持つリタイア組、国外の富裕層が多く、観光客はおろか、よそ者の移住も極力拒むという排他的な地域でもあります。

事件の被害者である秋吉家の世帯主、秋吉航季は書斎でゴルフボールを胃に詰められた状態で窒息死しており、母親の夏美は業務用冷蔵庫の中で凍死。長女の冬加は浴室でワイヤーに縛られ溺死していました。長男の春樹は自室でゲームのコードで首を絞められているところを発見され、一命を取り留めましたが、現在も意識不明の重体です。

静岡県警の刑事、深瀬肇は現場検証を進める中、後輩の笹井幸太と共に事件の真相に迫っていきます。

「深瀬さん、この捜査にご一緒できて光栄です。よろしくお願いします!」
 快活な声で再び敬礼した笹井に対し、深瀬はその言葉を聞き流しながら告げた。
「俺には相棒は必要ない、俺に近寄るな」

(『アイアムハウス』P.5より)

深瀬は近寄りがたい人物として知られていますが、その鋭い洞察力は県警でも一目置かれる存在です。笹井はその冷たい言葉に戸惑いながらも、捜査を続けます。

捜査が進むにつれて、秋吉家の殺害方法がそれぞれの「趣味」に関連していることが判明します。また、春樹が襲われた際にオンラインゲームで助けを求めたチャット相手「house」についても重要な手がかりとなります。

「昨日の午後三時が最後ですね。夜になったら連絡すると書いてあります。日本語ですから、相手は日本人のようですね。ユーザー名はhouse」
「ハウス……、家、か」
 深瀬は呟き、一度部屋を見回した。

(『アイアムハウス』P.28より)

さらに、秋吉家の母・夏美が働いていた花屋の第一発見者、堀田まひるに話を聞くと、十燈荘には住民専用のコミュニティサイト『じゅっとう通信』があり、そこで自治会の連絡も行われていることが分かります。
堀田は社交的で、セレブが多い街ならではの制約や悩みも口にしました……。

次々に明らかになる謎に引き込まれ、気が付けば物語の半分以上を読み進めていました。
物語は、16年前に起きた「十燈荘妊婦連続殺人事件」にもつながっていきます。深瀬はこの事件で尊敬する先輩を失い、今も十燈荘に複雑な感情を抱いています。

さらに、深瀬自身が抱える個人的な事情も絡み合い、物語はますます緊張感を増していきます。SNSを巧みに取り入れつつ、古くからある人間の嫉妬や憎しみをリアルに描いている点が印象的です。

深瀬と笹井のバディによる捜査も非常に読み応えがあり、警察小説としても楽しめる一作です。
すべての伏線が結末で見事に回収される爽快感は忘れらません。
タイトルに込められた意味がわかったとき、胸がギュッと締め付けられました。

なお、物語の舞台である十燈荘や藤湖、藤市、静岡中央市はいずれも架空の場所ですが、私はゴールデンウイークに訪れた藤枝市の蓮華寺公園を思い出しました。1週間遅れで藤まつりの見ごろを逃しましたが、池に映える藤がきれいでした。

アイアムハウス

由野寿和
幻冬舎メディアコンサルティング発行
幻冬舎発売
2024年9月26日第1刷発行

装丁:秋庭祐貴
装画:Q-TA

●目次
なし

本文267ページ

書き下ろし

■今回取り上げた本


由野寿和|作品ガイド
由野寿和|ゆうやとしお|ミステリー作家 1990年福岡県生まれ。 時代小説SHOW 投稿記事 →由野寿和の本(Amazonより) ⇒時代小説作家リストへ戻る