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花形役者の死絵を描くおふゆ。文庫書下ろし新人賞受賞第2作

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『牡丹ちる おくり絵師』|森明日香|時代小説文庫

牡丹ちる おくり絵師森明日香さんは、2022年に、『写楽女(しゃらくめ)』で、第14回角川春樹小説賞を受賞しました。そして、デビュー第2作として発表した『おくり絵師』では、2024年に第13回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞を受賞されました。

本書『牡丹ちる おくり絵師』は、亡くなった人を絵で追悼しておくる死絵(しにえ)を描く、おくりびとならぬ、おくり絵師として成長していく女性を描いた文庫書き下ろし時代小説シリーズの第2弾です。

昔馴染みで役者の市之進の死絵を描いたことをきっかけに、地本問屋からの注文が増えてきた絵師見習いのおふゆ。ある日街中で、ご禁制とされている。立役と女方の心中を描いた読売が売られていた。偶然通りがかったおふゆは、画帖を持っていたことから、その読売を描いた絵師だと勘違いされ、岡っ引きに捕まってしまう……。第十四回角川春樹小説賞を満場一致で受賞した著者の、注目の新シリーズ第二巻。

(『牡丹ちる おくり絵師』カバー裏の説明文より)

嘉永六年(1853)五月。
おふゆは、両国広小路で、「両国橋の橋桁に、流れ着いたは二つの死体。しかも大部屋住みの立役と女方、哀れな二人の心中だよ」と言って、ご禁制の役者の心中を描いた読売を売っている二人を見かけました。

ところが、十手持ちの男が現れると、二人の読売は一目散に逃げてしまい、かたわらで画帖を持っていたおふゆは、読売の絵師と間違えられて、岡っ引きの源八に番屋へ連れていかれました。

源八に読売の行方や、ご禁制と知っていて絵を描いたのかと問い詰められ、取り調べられると、おふゆは恐ろしくて身体の震えが止まらず、心細さに涙が滲んでしまいました。

「この者は下手人ではなかろう。国藤師匠の門下ならば、かように下賤なものを描くはずがない。まずは、逃げた読売を捜せ」
 不承不承に源八はうなずき、おふゆの縄を解いた。

(『牡丹ちる おくり絵師』P.46より)

師匠の国藤と女房のおなみが番屋に現れ、遅れて同心の梶原がやってきて、国藤と梶原の亡き父が懇意だったことから、おふゆはようやく放免されました。

それから十日が経った頃、番屋に連れていかれた日の衝撃からなかなか立ち直れないおふゆに、芝の地本問屋佐野屋の店主がやってきて、役者の心中の読売に描かれた二人を芝居の道行として描いてほしいと、注文を受けました……(第一話 読売の心中絵」)。

「第二話 宝物」 十一月。役者の助高屋高助が尾張での興行中に亡くなったという知らせがもたらされました。
その後、地本問屋の佐野屋から、おふゆに死絵の依頼がありました。

「その役者さんを知りません。初めてお名前を聞きました」
 高助は江戸と上方の舞台を行き来し、地方回りも多かった。そもそも江戸の舞台に立ったとしても木戸銭は高い。
 すると、佐野屋の目が険しくなった。
「冬女さん、これから死絵を描くつもりなら、もっと役者や芝居を学ばねばなりませんよ」
 その言葉は鋭く胸に突き刺さり、じわりと全身に痛みが広がった。

(『牡丹ちる おくり絵師』P.85より)

「第三話 牡丹ちる」 その年の秋。当代一の花形役者が上方で亡くなり、江戸市中が大騒ぎとなりました。
死絵を描く女絵師として評判になってきた、おふゆのもとに多くの地本問屋から依頼が入りましたが、自分には描けないと、いずれの依頼も断り続けました。
師匠の国藤は、そんなおふゆに謹慎を申し渡します。
絵を描くことを禁じたのでした。
人の生き死に関わることを商いに結び付ける過ちを犯していたおふゆ。

謹慎の間、悔い、悩みながら、死絵を描くために何が必要なのかを考え、思い至りました。
亡くなった役者の魂をあの世へ送り出す絵師であり、死絵を見た人が救われる絵を描かなければならない、遺された人を労わる絵を描くと。

真摯に死絵に取り組むおふゆの覚悟に心が震えました。
「苦悩が深いからこそ、芸に深みが出るのです。苦しみ、悩むのは人間である証です」という、登場人物のひとりの言葉が胸に残りました。

時代小説では季節の移り変わりとそこに暮らす人々の何気ない日々の営みに癒されることがあります。
本書でも、江戸の四季が色彩感覚豊かに描れていて、ヒロイン・おふゆを引き立たせています。

牡丹ちる おくり絵師

森明日香
角川春樹事務所 時代小説文庫
2024年5月18日第一刷発行

装画:かない
装幀:アルビレオ

●目次
第一話 読売の心中絵
第二話 宝物
第三話 牡丹ちる

本文239ページ

文庫書き下ろし

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森明日香|時代小説ガイド
森明日香|もりあすか|小説家 1967年生まれ。福島県福島市出身。弘前大学卒業。 2017年、「お稽古日和」で第16回湯河原文学賞最優秀賞を受賞。 2022年、『写楽女』で第14回角川春樹小説賞を受賞しデビュー。 2024年、『おくり絵師』...