『新 本所おけら長屋(一)』|畠山健二|祥伝社文庫
畠山健二(はたけやまけんじ)さんの大人気時代小説「本所おけら長屋」シリーズは、2023年3月刊行の第20巻で完結しました。
シリーズ終了に淋しい思いをしていたところ、2023年9月に『本所おけら長屋 外伝』が出て、ますます「本所おけら長屋」の沼にはまっています。
そして、2024年6月、満を持して『新 本所おけら長屋(一)』が刊行されました。第二幕(セカンドシーズン)の始まりです。(それにしては「時代小説SHOW」での紹介が遅すぎるというツッコミが入りそうですが)
あれから三年――本所おけら長屋に、万造とお満が帰ってきた! 酒屋奉公人の松五郎との再会を喜ぶ間もなく、左官の八五郎、浪人の鉄斎、お染ら馴染みの面々を騒動に巻き込んでゆく。盗賊が狙う薬種問屋を守る「まんてん」、えせ宗教からの足抜けを画策する「みかえり」、訳ありの上意討ちの謎に迫る「にたもの」の三篇収録。笑いと涙の大人気時代小説、第二幕開始!
(『新 本所おけら長屋(一)』カバー裏の内容紹介より)
第一話「まんてん」では、西洋医学を学ぶために長崎に留学していたお満と、そのあとを追いかけた万造が三年ぶりに、江戸に帰ってくるところから始まります。
明日は江戸という川崎宿で、二人は騒動に巻き込まれ、瀕死の男から、江戸の薬種問屋が盗賊に狙われていることを知りました……。
再合体した万造と松吉をはじめ、おけら長屋の面々は、お満の実家である薬種問屋木田屋もからむ危難に、いかなる方法で盗賊から店を守るのでしょうか?
「そうそう。万ちゃんとお満先生が住むところは、おけら長屋に用意してあるぜ。三年前のままになってらあ。あの部屋を借りてえって野郎が来ると、みんなで邪魔立てしたのよ」
八五郎は思い出し笑いをする。
「お化けが出るだの、前に住んでた野郎が呪われて狂い死にしたとかよ。そういえば、一人いたなあ、そんなこたあ気にしねえって強者がよ。だが、引っ越しの挨拶だってんで、隣の金太のところに行ったら、そのままいなくなりやがった。何があったか知らねえけどよ。わははは」
「大家だって渋い顔してたけど、しまいにゃ、ほくそ笑んでたぜ」
(『新 本所おけら長屋(一)』「第一話 まんてん」P.27より)
万造とお満が不在の三年間で変わった、おけら長屋と聖庵堂(お満の勤め先の治療院)の消息に触れながら、おけら長屋の面々が引き起こす、古典落語のような笑いの連続のうちに、煙に巻くように難問を解決してゆく手腕はさすが。
これぞ「本所おけら長屋」です。
第二話「みかえり」では、万造と二十五年前に生き別れた母親のお悠を引き合わせた立役者である、上野に住んでる笛職人の娘・お蓮が登場。なんと、おけら長屋の男と所帯を持ちたいと。
「楽しかったなあ。万造さんのおっかさんを見つけようとして、あちこちを歩き回って。驚いたり、笑ったり、涙を流したり……。おけら長屋のみなさんと一緒になって前に進んだり、振り出しに戻ったり。私、おけら長屋に住みたいって心の底から思いました。みなさん、面白くて、情け深くて、粋で、優しくて……。万造さんのために一生懸命に動き回って、何の見返りも求めない」
(『新 本所おけら長屋(一)』「第二話 みかえり」P.135より)
騒動が好きなのは、おけら長屋の人たちだけでなく、ここにもおけら長屋の沼にはまった人がいました。
本書では、ほかに、訳ありの上意討ちの真相に迫る「にたもの」の全三話を収録しています。充電期間を経て、さらに破壊力をパワーアップした「新 おけら長屋」シリーズから目が離せません。
なお、「新 おけら長屋」からは出版元を、PHP文芸文庫から祥伝社文庫に変えています。
新 本所おけら長屋(一)
畠山健二
祥伝社・祥伝社文庫
2024年6月20日 初版第1刷発行
カバーデザイン:bookwall
カバーイラスト:ふくだのぞみ
目次
第一話 まんてん
第二話 みかえり
第三話 にたもの
本文306ページ
文庫書き下ろし
■今回紹介した本