『赫夜(かぐよ)』|澤田瞳子|光文社
2024年7月1日から7月末日の間に、単行本(ソフトカバー含む)で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2024年7月の新刊(単行本)」を掲載しました。
今月の新刊で注目しているのは、澤田瞳子(さわだとうこ)さんの『赫夜(かぐよ)』(光文社)。
本書は、平安時代の延暦十九年(800)に起きた富士山の大噴火(富士山延暦噴火)を描いた歴史災害小説です。
延暦十九年。駿河国司の家人・鷹取は、軍馬を養う官牧で己の境遇を嘆く日々を送っている。
ある日、近くの市に出かけていた鷹取は、富士ノ御山から黒煙が噴き上がるのを目撃し、降り注ぐ焼灰にまみれて意識を失う。
一方、近隣の郷人や足柄山の遊女などの避難民を受け入れた牧は、混沌とする。
灰に埋もれた郷では盗難騒ぎが起こり、不安、怒り、絶望がはびこるなか、京から坂上田村麻呂による蝦夷征討のための武具作りを命じられる。
地方の不遇に歯噛みする鷹取は――
平安時代、富士山延暦噴火。大災害に遭った人々の苦悩と奮闘の日々を描く、歴史パニック長編。(『赫夜』Aazon内容紹介より)
同じ著者が災害を描いた歴史時代小説に、奈良時代の天平のパンデミックを舞台に人の命と業を描いた『火定(かじょう)』(PHP文芸文庫)があります。
また、江戸時代に起きた富士山大噴火を取り上げた小説で、嶋津義忠さんの『起返(おきかえり)の記 宝永富士山大噴火』(PHP研究所)もおすすめです。
さて、本書で著者は、全冊直筆サインと落款入りという画期的な試みに取り組まれています。
新刊発売時はイベントなどで書いたサイン本が、オークションサイトで定価の数倍で売買されることも少なくない状況が背景にあります。
私自身もイベントで並んで憧れの著者にサインをいただいたときに、とてもうれしかった記憶がありますので、サイン本は作品に付加価値を与えるものだと思っています。
しかしながら、そうしたファン心理を突くような転売には心を痛めています。
今回の試みで、出版元の光文社がサイン本の返品を可能にするという、異例の対応を取ったことにも注目したいです。
この流れを生かして、サイン本の返品を可にしたり、サイン本(返品)専門のオンライン書店をつくったりなど、転売を無効化するような何かルールを作れると良いと思いました。
■今回取り上げた本