『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』|周防柳|中公文庫
2024年5月21日から5月31日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2024年5月下旬の新刊(文庫)」を掲載しました。
今回は、周防柳(すおうやなぎ)さんの歴史時代小説、『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』に注目しています。
本書は、2022年に第28回中山義秀文学賞受賞作で、鎌倉時代を舞台に、小倉百人一首の選者として知られる、天才歌人・藤原定家を主人公にした歴史時代小説です。
平安時代の最高権力者・藤原道長に連なる藤原北家ながら傍流の御子左家は、歌壇ではそれなりの実力を発揮しているものの、公家の出世レースではパッとしない家柄。
当家の次男に生まれた藤原定家は、病由来の難聴を克服し、侍従時代の同僚で親友の藤原家隆らとともに「新古今和歌集」の選者を務めるなど、歌壇でめきめきと頭角を現す。
鎌倉幕府に押され気味の朝廷の権威回復を狙う後鳥羽院は、そんな定家に、三代将軍・源実朝に京への憧れを植え付けるため「敷島の道(和歌)」を指南せよと命ずる。後鳥羽の野心は肥大し、ついには倒幕の兵を挙げんとするが……。
知らぬ人のいない「小倉百人一首」には、なぜあの100首が選ばれたのか?
同じく藤原定家選の「百人秀歌」より1首少なく3首だけ異なる理由とは?
「承久の乱」前後の史実をきらびやかに描きながら、その謎を解き明かす。(『身もこがれつつ 小倉山の百人一首』(中公文庫)Amazonの内容紹介より)
藤原定家直筆の百人一首・小倉色紙の真贋をめぐる、梓澤要さんの名作ミステリー『百枚の定家』があります(中の人・理流が最も好きな歴史ミステリーの一つですが、残念ながら絶版になっていて、電子書籍化もされていません)が、藤原定家を主人公にした歴史時代小説はこれまでに読んだことがありません。
本書は、鎌倉前期の承久の乱前後を背景に、後鳥羽上皇、源実朝らを絡めて、天才歌人を描く、歴史小説です。
恥ずかしながら、定家が平安時代ではなく、鎌倉時代の歌人であることもこの本で知りました(先入観で歌の巧い公家=平安人と思っていたので)。
タイトルの「身もこがれつつ」は、百人一首にも収録された藤原定家の歌からのものです。大河ドラマ「光る君へ」で平安時代や貴族に興味をもった方に、とくにおすすめです。
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに
焼くや 藻塩の 身もこがれつつ
(百人一首97番、権中納言定家)
周防さんの歴史時代小説では、紀貫之と六歌仙たちのかかわりを描いた『逢坂の六人』もおすすめです。が、こちらも現在絶版のようで、残念です。
■今回ご紹介した本