『脳科学捜査官 真田夏希 ノスタルジック・サンフラワー』|鳴神響一|角川文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの人気警察小説シリーズの第20弾、『脳科学捜査官 真田夏希 ノスタルジック・サンフラワー』(角川文庫)。
シリーズの主人公の真田夏希は、警察庁サイバー特捜隊から神奈川県警に戻ってきました。
本書では、夏希の母親の俊美と、同い年の従姉妹、武藤朋花が物語に関わってきます。
どんな事件が起こるのか、そして、夏希が古巣に戻ってどのような活躍を見せるのか、興味は尽きません。
警察庁サイバー特捜隊から神奈川県警に戻ってきた真田夏希は、帰任早々に、出金要請を受けた。箱根のホテルで宿泊客2名と従業員2名を人質にとった立てこもり事件が発生したのだ。犯人は連絡を拒否し、何の要求もしていないという。だが、SISの島津らと現場の観察に向かった夏希は、衝撃の光景を目にすることになる――夏希の母親が人實になっていたのだ。夏希は犯人との交渉方法を探るが……。書き下ろし警察小説、第20弾。
(『脳科学捜査官 真田夏希 ノスタルジック・サンフラワー』カバー裏の紹介文より)
5か月ぶりに、心理分析官として科捜研のもとのセクションに戻った夏希に、小田原署管内での立てこもり事件への出動要請がありました。
箱根・芦ノ湖畔に建つ小規模リゾートホテル《芦ノ湖ホテル》で、従業員で営繕スタッフの男が、ホテルの支配人の腹部を刃物で刺して、従業員の一人と宿泊客の二人の女性を人質にとって立てこもる事件が起きました。
「犯人の心理状態をどのように考えますか」
静かな声で織田は訊いた。
「あまりいい状況とは思われません。立てこもり犯は最初は無視していてもいつかは電話に出るものです。内心では救いを求めているのが通常だからです。すでに三〇分近く経過していますが、電話に出ないのは犯人が絶望している可能性を否定できません。こうした場合、心理的に追い詰められて突発的に凶暴な態度を示すこともあり、人質や犯人の身が案じられます」
厳しい顔つきで冴美は答えた。
(『脳科学捜査官 真田夏希 ノスタルジック・サンフラワー』P.46)
現場近くに設置された前線本部で、捜査を指揮する本部長の織田に対して、SISの島津冴美は立てこもっている犯人と連絡が取れない状況を説明しました。
犯人からの一切の要求はなく、人質になっている従業員のスマホに電話をかけても応答はなく、犯人と連絡を取る方法はありません。
犯人とのコミュニケーションを通して、そのパーソナリティーを推測して、捜査に大きな助言をする心理分析官・夏希。
チャットもメールもできない状況で、夏希はどのようにして犯人と交渉していくのでしょうか?
SISは、集音マイクとファイバースコープを建物の中に挿入して、内部の様子が少しずつ分かってきました。
「OK。小出。いちばん左の女性をアップしてちょうだい」
冴美の指示で最後の人質がアップされた。
夏希はさっき抱いた疑いを晴らそうと画面を凝視した。
「うそっ!」
思わず夏希は叫び声を上げた。(『脳科学捜査官 真田夏希 ノスタルジック・サンフラワー』P.76)
そう、最後の人質は夏希の母でした。中学校の美術教員を定年退職をして、函館の実家で悠々自適に暮らしているはずの母・俊美でした。
想定外の状況に大いに驚愕する夏希ですが、最愛の母を無事救い出せるのでしょうか?
この人質立てこもり事件は、夏希のふるさと、函館にもつながっていきました。
今回も、事件の謎を追う捜査展開の見事さと、夏希の大胆な行動による爽快感とが堪能できて、読み始めたら止められず、一気読みする面白さでした。
サイバー特捜隊の仲間たちもよいのですが、やはり神奈川県警の仲間たちは素敵で、みなで事件を解決するのは格別です。
脳科学捜査官 真田夏希 ノスタルジック・サンフラワー
鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2024年2月25日初版発行
カバー写真:Kykyshka/iStock/Getty Images Plus, AleksandarGeorgiev/E+/Getty Images
カバーデザイン:舘山一大
●目次
序章 函館に残る悲しみ
第一章 出戻り夏希、最初の事件
第二章 湖畔の祭典
第三章 函館の隅に眠っていた過去
本文269ページ
文庫書き下ろし
■今回取り上げた本