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鉄砲玉飛び交う長篠で与一郎は活躍なるか? 於弦の運命は?

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『北近江合戦心得(三) 長篠忠義』|井原忠政|小学館文庫

北近江合戦心得(三) 長篠忠義「時代小説SHOW」の2023年ランキング【文庫書き下ろし部門】第3位に輝く、「北近江合戦心得」シリーズ。その第三弾となる、井原忠政(いはらただまさ)さんの『北近江合戦心得(三) 長篠忠義』(小学館文庫)では、ますます面白くなっています。

浅井家重臣だった遠藤与一郎は、主家再興のため、羽柴秀吉の下で足軽から再出発することとなった。潜行していた越前で、徳川家重臣・大賀弥四郎が敵の武田勝頼に内応しているという情報を掴んだ与一郎ら一行。報を受けた秀吉からまた無茶な命がくだる――「謀反人はおみゃあが殺せ」。徳川家中が落ち着くと、勝頼が兵を長篠城に向けたことを受け、織田信長は武田と雌雄を決する覚悟を固めた。大普請の末築かれた長大な馬防柵の最前線、人馬入り乱れて鉄砲玉飛び交う設楽原で、与一郎らの活躍なるか? 臨場感溢れる戦場描写、再起奮闘のお家再興戦国物語第三弾!

(『北近江合戦心得(三) 長篠忠義』カバー裏の内容紹介より)

浅井家重臣・遠藤喜右衛門の嫡男で弓馬の名手与一郎は、浅井家再興のため、仇である羽柴秀吉と取引をして、「大石」と名を変えて足軽として秀吉に仕えることになりました。
時は天正二年(1574)師走。
この夏、伊勢長島の一向一揆を壊滅させた織田信長。秀吉は、今後の越前一向一揆の一掃に備えて、与一郎と弁造、左門の主従と足軽組を敦賀に派遣し、越前情報の収集を命じました。

彼の地で与一郎は、将来を誓い合った女猟師の於弦も捜していました。
かつて、与一郎が浅井家再興のために、於弦との約定を反故にしたのでした。

「殿の出世は、身共と左門の将来をも左右致しまする」
 弁造が左門から話を引き継いだ。
「伴侶選びも慎重にお願い致しまするぞ」

(『北近江合戦心得(三) 長篠忠義』P.17より)

気性が激しく、自己主張が強く、おまけに物騒な毒矢の使い手の於弦を弁造らは、与一郎の妻にはふさわしくないと思っていて、与一郎を諫めます。
与一郎も一家の頭領として、己の想いだけで妻を選ぶことはできないと頭ではわかっていました。

ところが、於弦が越前の一向一揆軍に身を投じたという噂が伝わってきて、於弦の居場所を突き止め、両親のもとへ連れ戻したいと告げました。

「殿は、徳川家康公の御嫡男を御存じで?」
「名だけは知っとる。岡崎三郎様やろ」
「それがですな……」

(『北近江合戦心得(三) 長篠忠義』P.64より)

越前府中城内に潜入した弁造は、家康の嫡男で岡崎城主の岡崎三郎(松平信康)に仕える重臣大賀弥四郎が、武田勝頼に内応しているという情報を掴んできました。勝頼は大賀の手引きにより岡崎城を乗っ取るべく、五月にも三河に兵を出すとも。
与一郎は、小谷城にいる秀吉に、自らその情報を伝えることに……。

物語は、長篠の合戦に向けて動き始めます。

鉄砲玉が飛び交う設楽原で、与一郎主従は活躍できるのでしょうか。
そして、愛する女(ひと)・於弦を救い出すことも叶うのでしょうか。

「三河雑兵心得」シリーズでは、雑兵目線で戦場を描き、吝い上司として家康を描出したように、本シリーズでは、秀吉とその戦いぶりを与一郎の視点で描いていくのが魅力です。
そして、秀吉の活躍に合わせるように、戦場をいくつも経験していき、与一郎の「忠義」の向かう先も浅井家から秀吉に変わっていくところも描かれています。

七福神の布袋が担いでいるような頭陀袋をいつも背負っている、新しい家臣・大和田左門の存在も面白くて好きです。巨大な丸い麻袋からは、煎り豆、兵糧丸などの携行食、薬、晒、縄、武器と、ドラえもんのポケットのようにありとあらゆるものが出てきて、与一郎を幾度も助けます。

本書には、「三河雑兵心得」シリーズの主人公植田茂兵衛も登場し、ファンには楽しみなところ。どこに出て来るのか、注意して読まないと見逃しそうですが……。

二大人気シリーズの比較

シリーズ名 「三河雑兵心得」 「北近江合戦心得」
出版元 双葉社・双葉文庫 小学館・小学館文庫
主人公 植田茂兵衛 大石(遠藤)与一郎
故郷 三河国植田村 近江国小谷
出身 農民 重臣の嫡男
役職 足軽から出世中 足軽から出世中
主君 徳川家康 浅井長政→羽柴秀吉
性格 粗野だが、情に厚く、思いやりがある 頭は良くないが、部下思いで誠実
風貌 鬼瓦みたいな顔 女性的な美しい顔
特技 喧嘩、槍 弓と馬の名手
仲間 木戸辰蔵 丑松 武原弁造、大和田左門
運命の女 綾女 於弦
テーマ 仁義 忠義

北近江合戦心得(三) 長篠忠義

井原忠政
小学館 小学館文庫
2023年11月12日初版第1刷発行

カバーイラスト:スカイエマ
カバーデザイン:bookwall

●目次
序章 主人心得
第一章 風雲は東から
第二章 岡崎城下の暗殺
第三章 設楽原の野戦陣地
第四章 越前、鎧袖一触
終章 主人道修行

本文277ページ

文庫書き下ろし

■今回取り上げた本


井原忠政|時代小説ガイド
井原忠政|いはらただまさ(経塚丸雄)|時代小説・作家 神奈川県出身、神奈川県鎌倉市在住。会社勤務を経て文筆業に入る。 2016年、経塚丸雄のペンネームで『旗本金融道(一) 銭が情けの新次郎』で時代小説デビュー。 2017年、同作で、第6回歴...