『義妹にちょっかいは無用にて(2)』|馳月基矢|双葉文庫
馳月基矢(はせつきもとや)さんの人気時代小説シリーズ、『拙者、妹がおりまして』からスピンオフした新シリーズの第2作、『義妹にちょっかいは無用にて(2)』(双葉文庫)が出ました。
『拙者、妹がおりまして』の主人公白瀧勇実の手習所を手伝っていた大平将太と、長崎から単身やってきて大平家の養女となった理世が主人公の青春時代小説です。
大平将太は美丈夫で、見る分にはいい男だと誰もが思う。その将太に好意を抱く娘が現れる――大店の娘・おれんが出血した姿で医家の大平家に運ばれてきた。聞けば、おれんは嫌な縁談を断ろうとしたことが元で自分の顔を傷つける癖があるのだという。不在の父や兄に代わって手当てし、優しい言葉をかけた将太の手を、おれんはなかなか離さなかった……。
後日、弱っている人がいたら兄は放っておけないのだと告げた妹の理世に、おれんは何かを見透かすかのように不敵に笑うのだった。風雲急を告げる、義理の兄妹愛シリーズ第2弾。(『義妹にちょっかいは無用にて(2)』カバー裏の内容紹介より)
ある日、勇実の手習所を継いだ勇源堂で子どもたちを教える将太のもとに、大平家の下男吾平が慌ててやってきました。理世が往来で、馴れ馴れしい男に絡まれて難儀していると。慌てて帰ってみると、その男は役者と見まごうばかりの美男子で、破談になった理世の縁談の相手、旗本の嫡男・諸星才右衛門でした。
その二日後、才右衛門の弟、杢之丞が両親ともに大平家を訪れ、新たに弟との縁談を申し入れました。
「ええと……その、見合いをした次男というのは、どういう人、なんですか?」
「至極まともだ。諸星家の次男坊、杢之丞って男は、ちゃんとしていた。真っ当で誠実で、そこそこ男前でもある。調べたところによると、剣術もできるようだ。おつむのほどはちょいと物足りんが、そこはまあ、大平家の兄弟が優秀すぎるせいで見劣りするってことにしとこうか」
臣次郎は自画自賛して笑った。
(『義妹にちょっかいは無用にて(2)』P.64より)
あとで、次兄の臣次郎から見合いの顛末を聞いた将太は、一目ぼれしてほかの何にも代えがたい大切な義妹、理世のことが心配で、もどかしい思いを持て余してしまいます。
第二話では、将太の教え子・桐の淡い恋心が描かれ、理世の意外な秘密も明らかになり、不穏な空気が……。
そして第四話で、将太は教え子の海野淳平の予言にたいそう驚きます。
「将太先生、そろそろ女に持て始めるんじゃないですかね。いい塩梅になってきた気がしますよ」
(『義妹にちょっかいは無用にて(2)』P.191より)
見た目は凄まじいばかりの美丈夫ながら、中身は純粋無垢な男の子という、ちぐはぐな将太に好意を持つ娘が現れて……。
義理の兄将太と妹理世の仲はどうなっていくのでしょうか?
じれったくも目が離せない二人。江戸の青春を描く時代小説が面白く、早く続きが読みたくなります。
そんなラブストーリーの合間にあって、絶妙なスパイスを加えているのが、第三話。
勇源堂の隣の屋敷(元勇実と千紘兄妹の屋敷)に越してきた、御家人の浅原直之介は武張ったところがなく気取らない性格で、勇源堂の筆子たちに人気で、皆しょっちゅう入り浸っています。
直之介は大量の書物を蓄えていて、子どもたちに『南総里見八犬伝』の面白さをわかりやすく教えてくれたりします。
『八犬伝』のような面白さがあると、すすめる戯作が華氏原三二(かしはらさんじ)の『北方異聞録』でした。
『北方異聞録』は著者オリジナルの作品ですが、本書の中ではストーリーやキャラクターが丁寧に作り込まれています。
イメージが広がり妄想が膨らむのは、読書好きの性でしょうか。いつか『北方異聞録』を別巻かブックインブックで出してほしいなと思いました。
義妹にちょっかいは無用にて(2)
馳月基矢
双葉社 双葉文庫
2024年1月11日第1刷発行
カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:Minoru
●目次
第一話 理世の縁談、再び
第二話 朱色の下緒の君
第三話 直先生の正体
第四話 贔屓のおなご
本文233ページ
文庫書き下ろし
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『義妹にちょっかいは無用にて(1)』(馳月基矢・双葉文庫)
『義妹にちょっかいは無用にて(2)』(馳月基矢・双葉文庫)