『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜6 万年筆の悪魔』|鳴神響一|幻冬舎文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜6 万年筆の悪魔』(幻冬舎文庫)は、文庫書下ろし警察小説シリーズの第6弾です。
神奈川県警刑事部刑事総務課の捜査指揮・支援の専門捜査支援班に所属している、細川春菜は、女子高生と見まごう童顔の美人警察官。専門知識を持った民間の捜査協力員=「ヲタク」の知識を借りて、難解な殺人事件の謎を解く、というストーリーがユニークで、鉄道、温泉、アニメ、テディベア、クラシックカーなど、毎回のヲタクネタがよく考えられていてこのシリーズの魅力となっています。
田中寛崇さんの表紙装画も春菜のイメージにピッタリで、作品の世界に誘ってくれます。
捜査一課の浅野康長が細川春菜に捜査の応援を頼んだ殺人事件は謎めいていた。凶器は万年筆。被害者が突っ伏していた机上にはなぜかペン先の壊れた高級万年筆。傍らには『CASERTA』という文字に×印のメモ。それらが意味するものを探る二人は、万年筆が想像以上に奥深い筆記具であるこおに気づく。やがて突き止めた犯人とはいったい……?
(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜6 万年筆の悪魔』カバー裏の紹介文より)
神奈川県警捜査一課強行七係の警部補で、何度も春菜と事件に取り組んできた浅野康長が、専門捜査支援班の島にやってきて、春菜とヲタクたちの力を借りたいと。
浅野によると、殺人事件はちょうど一週間前の9月7日、箱根仙石原の別荘で起こりました。被害者は、元商社マンでリタイア後は悠々自適の生活を送っていた73歳の老人。電子キーで施錠された部屋で、こめかみ付近に万年筆を突き刺さって死んでいました。
万年筆愛好家で高級万年筆のコレクターでもある被害者の死体のそばには、ペン先を折られた高級万年筆と、『CASERTA』と書かれて大きく×印がつけられたメモが残されていました。
春菜は、登録捜査協力員の名簿から、《文房具》のインデックスの付けられたページで、備考欄に万年筆と記してある協力員を3名見つけて、面談のアポを取りました。
万年筆について、捜査に役立つ話が聞けそうな3人は、27歳の会社員、34歳のイラストレーター、61歳の公務員でした。
「原稿用紙に実際に書くっていう作業は脳を刺激するんですよ。二一世紀に入っても、北方謙三先生、浅田次郎先生、赤川次郎先生、石田衣良先生、平野啓一郎先生など、万年筆をお使いになっていた作家の先生方はたくさんいらっしゃいます」
名前は知っている人ばかりだった。著作を手にしたこともある作家もいた。
「わたし、現代の作家って、みんなキーボードで原稿を書いているのかと思っていました」(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜6 万年筆の悪魔』P.41より)
春菜の同僚で、専門捜査支援班で、工学系担当の大友は、万年筆ヲタクで、万年筆に関する蘊蓄を披露し、手書きはキーボードを使うよりも楽しく、文章もスラスラ出てくると言い、事件現場を見に箱根に行くという浅野と春菜に同行を申し出ます。
ディープな万年筆の沼に読者を引き込む物語の始まりです。
春菜と同じように万年筆をもっておらず、ほとんど使ったことがない私ですが、本書を読み、作品に登場する万年筆をネットで画像検索しているうちに、その美しさと奥深さに惹かれていきました。
登場人物の一人が話す「万年筆にはストーリーがある」「ストーリーを持った筆記具」という言葉が記憶に残りました。
神奈川県警の登録捜査協力員たちから聞き取った話をもとに、事件の謎を解いていく、このミステリーはヲタクの世界が楽しめるだけでなく、良質なパズルを解くような知的満足度が得られる、ネオ警察小説です。
読み終えたばかりですが、次はどのヲタクの世界を見せてくれるのか、大いに楽しみです。
神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜6 万年筆の悪魔
鳴神響一
幻冬舎 幻冬舎文庫
2023年12月10日初版発行
カバーデザイン:舘山一大
カバーイラスト:田中寛崇
●目次
第一章 別荘地の事件
第二章 沼の住人
第三章 万年筆仙人
第四章 悲しきストーリー
本文246ページ
文庫書き下ろし
■今回取り上げた本