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戦国・江戸の奇人変人、ポンコツたち、愛すべき8人を収録

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『戦国・江戸ポンコツ列伝』|吉川永青|集英社文庫

戦国・江戸ポンコツ列伝戦国武将の新しい面に光を当て、その生き様を骨太に描く歴史小説で知られる、吉川永青(よしかわながはる)さん。

『戦国・江戸ポンコツ列伝』(集英社文庫)は、そんな著者の新たな魅力に触れることができる歴史時代短編集です。

本書の「ポンコツ列伝」というタイトルに痺れました。
ポンコツは、人に使う場合、役に立たない、使えないという意味のことが多いですが、にもかかわらず愛すべき人というニュアンスも含んでいるように思われます。

語源は、拳骨で殴ったときの「ポン」「コツ(ン)」という擬音語(擬声語)という説があります。また、阿川佐和子さんのお父さまで作家の阿川弘之さんの新聞小説『ぽんこつ』から広まったと言われています。

「ポンコツ」の語源は?産みの親は、あの人の父だった!【知って得する日本語ウンチク塾】 | HugKum(はぐくむ)
「ポンコツ」な人ってどんな人? 「こんなこともできなんじゃポンコツだ」 「あの人は本当にポンコツ

私は天下無双の超イケメン! お殿様に寵愛をうけていたけれど!?(森川若狭「私は腹を切りたくない」)気の進む戦なんてない。断じてない。あぁ、とても恐い。(徳川家康「わしは腹を切るぞ」)一生に一度、なけなしの金で女郎を買いたいだと。だったらワシが……。(中島棕隠「色道仙人」)など、歴史上の偉人の“ポンコツ”な一面にスポットを当てる、抱腹絶倒の歴史時代短編集! 日本史初心者、大歓迎の一冊。

(『戦国・江戸ポンコツ列伝』カバー裏の説明文より)

御三卿の一つ、一橋家に仕える、旗本土肥半蔵の長男庄次郎は、小さい頃から槍術、剣術を習い、槍は免許となり、一橋家中の子弟に指南をしていました。

二十七歳の庄次郎は、父から勤勉と倹約を強く奨励されてきたせいで、この歳になるまで酒も嗜まず周囲から堅物と見られていました。

ところが、その日、友に吉原に誘われ断るのですが、「二十七にもなって女を知らぬでは、嫁を取った時にどう扱って良いのかもわからぬだろう。おまえにとって学問にも等しいのだ」という叔父が厳格な父に口添えしてくれると言いました。

「ただし、のめり込むなよ。まあ、おまえには分別があるし、そこは心配しとらんがな」
「……分かりました。此度限りです。二度としません」

(『戦国・江戸ポンコツ列伝』P.15より)

ところが、遊びは此度限りで二度としないつもりでしたが、半年を過ぎる頃には、遊里通いは当たり前になり、酒を覚え、女の味を知りました。
ある日、吉原の酒宴の場に、父に踏み込まれて、家に連れ戻されて勘当を言い渡されました。

庄次郎は、着の身着のまま、その晩のうちに家から放り出されて、旧知の幇間の荻江清太を頼って弟子入りして、荻江露八と名乗ることに……。
旗本から幇間へ。ポンコツぶりが発揮されますが、幇間の身ながら、彰義隊に入隊していた弟の影響で彰義隊に加わり、戊辰戦争にも加わりました。

本書では、重大な危機に陥ると腹を切りたくなる徳川家康や、天下の名刀と聞くととてつもなく欲しがる伊達政宗といった、名将のポンコツな一面も描かれています。
戦に出るたびに敗戦を繰り返し、居城の小田城を何度も落城させてしまい、“戦国最弱”といういわれる常陸の武将小田氏治のエピソードは、戦国一のポンコツぶりで、笑ってしまいます。

とく秀逸で面白いのは、武将たちに比べて知る人ぞ知るという感じの江戸の奇人変人、いやポンコツたちです。

神社仏閣を参拝した証しに貼る「千社札」の火付け役となった儒者の天愚孔平や、一生に一度、なけなしの金で女郎を買う武士に色道指南をする中島棕隠、天下無双のイケメンで蒲生忠郷に寵愛された森川若狭を描いた短編は、大いに笑った後に、そのポンコツぶりを誰かに教えてあげたくなります。

脱力必至の愛すべき、8人のポンコツたちのお話。
著者は、肩の凝らないこんな小説も書けるんですね。
笑える時代小説を読みたい方、歴史が少し苦手という方にもおすすめです。

戦国・江戸ポンコツ列伝

吉川永青
集英社 集英社文庫
2023年10月25日第1刷

カバーデザイン・本文デザイン:目崎羽衣(テラエンジン)
イラストレーション・本文イラスト:おおさわゆう

●目次
第一話 旗本たいこ
第二話 わしは腹を切るぞ
第三話 私は腹を切りたくない
第四話 天愚か人愚か
第五話 刀と政宗
第六話 色道仙人
第七話 小田城の落とし方
第八話 あの人の弟

解説 ミスター武士道

本文347ページ

「Web集英社文庫」2021年9月~2023年4月に配信された『ポンコツ列伝』を改題の上、加筆修正したオリジナル文庫。

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『戦国・江戸ポンコツ列伝』(吉川永青・集英社文庫)

吉川永青|時代小説ガイド
吉川永青|よしかわながはる|時代小説・作家 1968年、東京都生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。 2010年、「我が糸は誰を操る」で第5回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞。 2012年、『戯史三國志 我が槍は覇道の翼』で第33回吉川英治文学賞...