2023年11月22日(水)、第6回書評家・細谷正充賞ならびに第4回書架の細充賞(一般社団法人文人墨客主催)の授賞式が、受賞作家と担当編集者、多くの作家、編集者など出版関係者を集めて、神保町の出版クラブホールで開催されました。
その様子を報告します。
開会宣言の後、文芸評論家で書評家の細谷正充さんが選んだ、今年の5冊の著者が登場しました。
青柳碧人(あおやぎあいと)さんの『名探偵の生まれる夜』(KADOKAWA)
片島麦子(かたしまむぎこ)さんの『未知生さん』(双葉社)
多崎礼(たさきれい)さんの『レーエンデ国物語』(講談社)
成田名璃子(なりたなりこ)さんの『いつかみんなGを殺す』(角川春樹事務所)
松下隆一(まつしたりゅういち)さんの『侠(きゃん)』(講談社)受賞されたみなさん、おめでとうございます!
受賞者へ賞状と花束、副賞が渡された後、細谷さんが受賞理由、なぜこの5作が選ばれたのかについてお話しされました。
青柳さんは、数学や昔ばなしを題材にしたミステリーなどで実績が豊富ですが、今回、大正の文豪ミステリーという新境地にチャレンジして、成功したことを評価した。
片島さんについては、それまでは作品を読んだことがなかったが、書評を依頼されて『未知生さん』を読み、その面白さに驚嘆し、自身の不明に懺悔の意味も込めて取り上げた。
多崎さんは、逆にハイ・ファンタジーの優れた書き手として、『煌夜祭』からずっと注目していた作家で、待望の新作が出たことで推し、2作目以降も素晴らしい。
成田さんは、1作ごとに題材を変えている点を評価してきたうえで、Gを題材に老舗ホテルを舞台に一夜の出来事をグランドホテル形式で描いた作品で、これはすごい作品であり、細谷賞をあげなければならないと思った。
松下さんは、下読みとしてかかわった1作目の『羅城門に啼く』からもっと話題になってもよい作品だと思っていた。今回の作品は内容がよく、地べたを這いずるように生きている人の人生を見詰め、そういう人の人生にも意味があるということを真摯に描いている。ギャンブル小説としても面白さに満ちている。
その後、受賞作家たちの受賞スピーチがありました。
スピーチでは、青柳碧人さんが、(作品に描いた)大正時代は令和に似ている、ポジティブさが共通している、令和の時代の空気があるからこそ書けた大正の話だというコメントが印象に残りました。
時代小説の『侠』のほかは未読でしたが、受賞作家たちの話を聞いているうちに、他ジャンルの4作品についても、すぐに読んでみたくなりました。
というか、読まずにはいられない衝動を押さえられません。
『侠』は、本所で蕎麦屋を営む、余命いくばくかの老店主が、賭場荒らしの末に店に転がり込んできた若者と知り合い、元博奕打ちだった過去の罪を清算すべく最後の大博奕に挑むという、市井人情ものであり、江戸ギャンブル小説です。
息を吐かせないストーリー展開の中で、主人公の内面がしっかりと描かれていてに引き込まれる作品です。
今回の取材では、松下さんにお目にかかれることを楽しみの一つにしていました。
シナリオライターを20年やってきて、これから小説家として20年やっていけるかどうか不安がある。小説はシナリオのようにすらすらとは書けないと謙遜気味におっしゃっていました。
ところで、作家への表彰とともに担当編集者も、世に、ユニークで素晴らしい本を送り出してくれた功績を「書架の細充賞」と題して、表彰しているのがとても良い試みで感動しました。
本の目利きは、優れた作品は作家だけの力ではなく、編集者の手厚く的を射たサポートによる部分も大きいということを知っているのでしょう。
中締めでは、主催者でこの賞の生みの親である、イラストレーターで一般社団法人文人墨客の岩田健太郎さんが、第1回の細谷正充賞創設時の仰天エピソードを話され、場内は笑いとほっこりした気分に包まれました。
また、細谷さんは今年還暦を迎えられ、編者をつとめられているPHP文芸文庫のアンソロジー「時代小説傑作選」は年内に累計50万部を突破するということをお祝いして、作家の坂井希久子さんから花束が贈呈されました。会場には、書評家・細谷正充賞の前回の受賞者、鷹樹烏介さん(『銀狼は死なず』)、夜弦雅也さん(『高望の大刀』)、矢樹純さん(『マザー・マーダー』)をはじめ、新川帆立さん、西尾潤さん、美輪和音さん、千葉ともこさん、中国歴史小説の大御所塚本靑史さん、架空戦記もで熱烈なファンを集める横山信義さん、青木杏樹さん、陸理明さん、金子ユミさん、飛野猶さん、瞬那浩人さん、イラストレーターの甲斐千鶴さん(素敵なカードをありがとうございます)、『未知生さん』の装画を担当された右近茜さん、文芸評論家で「時代伝奇夢中道 主水血笑録」サイトの三田主水さん(お久しぶりです)の姿もあり、大変に盛況でした。
本を愛し、ジャンルを超えエンタメ小説を盛り上げていこうという、多くの作家、編集者、出版関係者の交流の場にもなり、私も何人かと会話ができ、温かい気持ちになり、パワーをいただいて帰りました。
最後に、アットホームで、素敵な授賞式を開催された主催者・参加者のみなさまに、心より感謝申し上げます。
●本日の戦利品
細谷さんの最近のお仕事であるアンソロジー3冊(『いのり」朝日文庫時代小説アンソロジー』、『おつとめ 〈仕事〉時代小説傑作選』、『えどめぐり 〈名所〉時代小説傑作選』)、防災食の豚汁、お茶、代々木八幡宮の御朱印まもり(故平岩弓枝さんの実家で、増刷に御利益があると言われています)
■Amazon.co.jp
『名探偵の生まれる夜』(青柳碧人・KADOKAWA)
『未知生さん』(片島麦子・双葉社)
『レーエンデ国物語』(多崎礼・講談社)
『いつかみんなGを殺す』(成田名璃子・角川春樹事務所)
『侠』(松下隆一・講談社)