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絵師見習い少女の愛と成長を描く、角川春樹小説賞受賞後第1作

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『おくり絵師』|森明日香|時代小説文庫

おくり絵師著者の森明日香(もりあすか)さんは、2022年に、謎多き絵師写楽を陰で支えた一人の女を描いた時代小説、『写楽女(しゃらくめ)』で、第14回角川春樹小説賞を受賞しました。

本書『おくり絵師』(時代小説文庫)は受賞後第1作となる文庫書き下ろし時代小説です。おくりびとならぬ、亡くなった人を絵で追悼しておくる、おくり絵師が描かれています。

故郷の仙台で母親を亡くし天涯孤独となったおふゆは、母の最期の言葉を頼りに江戸に行き、縁あって、絵師歌川国藤のもと、住み込みで修業の身である。思うような絵を描けず、悩んでいたある日、亡くなった役者の姿を描いた「死絵(しにえ)」に出会う。一方、幼少時に仙台で知り合った昔馴染みで役者の三代目富沢市之進が、浅草の芝居小屋の夏興行でついに主役を張るという。おふゆは市之進の母親お京に誘われ、初日の舞台を見に行くことになるが……。憂き世を照らす一途な愛と親子の絆に涙する、書き下ろし時代小説。

(『おくり絵師』カバー裏の説明文より)

おふゆは、仙台・秋保温泉の旅籠で住み込み女中として働く母に育てられました。
十二のときに、あるきっかけから江戸に出て、絵師歌川国藤のもとで、住み込みで修業をしている十七歳の絵師見習い。
兄弟子たちを見て、絵が上手くなりたいと焦り、自分の絵を見失っていました。

そんなある日、兄弟子の岩五郎から、お茶の箱を包んでいた錦絵を見せられました。

 受け取った絵を両手で伸ばす。皺は刻まれたままだが、人物の輪郭は損なわれていない。手に渡った絵に視線を落とし、そのまま目が離せなくなった。
「これは……」
 物語の場面かしら。見えない熱気が絵から伝わる。
 描かれていたのは、一人の僧侶と三人の尼。仏画だろうか。

(『おくり絵師』P.46より)

それは、四代目中村歌右衛門を追善する、死絵(しにえ)でした。
歌右衛門は、この年の嘉永五年(1852)二月に亡くなっています。

おふゆは、この役者の舞台を見たことがないのに、絵から不意に生前の姿が浮かんできて、両手が震え、じっとりと額に汗が浮きました。物珍しさだけではない、畏怖を払い除け、禁忌とされる死を真向から描いた、描き手の強い意志を感じ取り、死絵に魅せられました。

おふゆは仙台で育った幼い頃からの昔馴染みの役者が、江戸で大物歌舞伎役者の養子となり、三代目富沢市之進となって、夏興行で主役を演じると聞きました。

「おふゆちゃん、知ってるかい、『東海道四谷怪談』。お岩さんの話だ」
「はい、知ってます。恐いお話ですよね」
「夏興行で、その芝居をやる。俺の役は民谷伊右衛門だ」
 市之進の口調が熱くなる。

(『おくり絵師』P.114より)

旅芸人一座の出自を嗤う役者がいます。また、どれだけ芸が優れていても新参者は大部屋役者から始めるところ、先代の養子になったことを嫉妬する役者もいる中で、市之進は修業を続け、伊右衛門を完ぺきに演じるためにある工夫を仕掛けました……。

自分の描きたい絵が見つかったおふゆですが、そこから本当の修業が始まります。
おふゆの絵の修業とともに、淡い恋が描かれていきます。
息子の晴れ姿を楽しみにしている市之進の母で旅芸人一座の座長お京。
親子の絆にウルッとさせられます。

師匠の国藤は厳しくも時には温かく、おふゆの絵の修業を導いていくのが印象的です。
国藤の娘のお夏、兄弟子の岩五郎、周りのものたちも見守っていく、じんわりと心が温まっていく、読み味のよいおすすめの時代小説です。

おくり絵師

森明日香
角川春樹事務所 時代小説文庫
2023年10月18日第一刷発行

装画:かない
装幀:アルビレオ

●目次
第一章 萌芽
第二章 新風
第三章 慈雨
第四章 開花

本文241ページ

文庫書き下ろし

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『写楽女』(森明日香・角川春樹事務所)
『おくり絵師』(森明日香・時代小説文庫)

森明日香|時代小説ガイド
森明日香|もりあすか|小説家 1967年生まれ。福島県福島市出身。弘前大学卒業。 2017年、「お稽古日和」で第16回湯河原文学賞最優秀賞を受賞。 2022年、『写楽女』で第14回角川春樹小説賞を受賞しデビュー。 2024年、『おくり絵師』...