『義妹にちょっかいは無用にて(1)』|馳月基矢|双葉文庫
馳月基矢(はせつきもとや)さんの人気時代小説シリーズ、『拙者、妹がおりまして』からスピンオフした新シリーズ、『義妹にちょっかいは無用にて(1)』(双葉文庫)が始まりました。
今回は、『拙者、妹がおりまして』の主人公白瀧勇実の手習所を手伝っていた、大平将太(二〇)と、旗本家に嫁ぐために長崎から単身やってきて大平家の養女となった理世(一八)が主人公です。
理世は長崎の商家から旗本家に嫁ぐために江戸に来て大平家の幼女となった。大平家の三男、将太は子供時分は鬼子とも呼ばれる暴れん坊だったが今は手習所の師匠として筆子を教えている――二人は仮そめの兄妹になった。が、将太は”美しい妹にひと目惚れ”してしまう! 苦悩しつつ想いを封印し、縁談を反故にされてひとりぼっちの理世を守ると決意する将太だが……。人気シリーズ『拙者、妹がおりまして』に連なる、新たなる兄妹の物語、いざ開幕!
(『義妹にちょっかいは無用にて(1)』カバー裏の内容紹介より)
時は文政七年(1824)七月。
将太は六尺豊かな偉丈夫ながら、祖父も父も兄もみな医者という大平家にあって、鬼子のように育ち、医者を目指さず儒学や国学、蘭学を学び、家族とは意思疎通ができずに疎外感を感じていました。
一方の理世の縁談は、旗本家の事情から無くなってしまいます。知己のいない、慣れない江戸の生活で、長崎訛りの抜けない理世はひとりぼっちで淋しく苦しんでいました。
が、将太が理世にひと目ぼれして、その想いを封印しながらも何くれと面倒をみるうちに、理世も次第に江戸に慣れ、本来の自分を取り戻してきました。
その日、将太と理世は、勇実の妹で二カ月前に矢島龍治に嫁いだばかりの千紘と、湯島の勇実の新居に招かれて、一緒に出掛けることに。
なるほど理世は人形のように整った姿かたちをしている。それが笑ったり動き回ったりすると、はっと胸を打たれるほどに愛らしいのだ、
しかしながら、理世は見世物ではない。見も知らぬ者がじろじろと無遠慮なまなざしを投げかけてくるのは、将太にとって気分のよいものではなかった。
将太は声を上げた。
「理世、この兄からあまり離れるな!」
(『義妹にちょっかいは無用にて(1)』P.13より)
頼りになる兄ではありますが、家に帰ると、劣等感丸出しではなはだ情けない将太でもあります。
出かけていた将太と理世がが家に帰る、門前で大騒ぎが。将太が寄宿していた儒者の屋敷の下男吾平が、京から訪ねてきたのです。
「へい。シーボルト先生のもとで蘭学と医学を究めるべく、日の本じゅうの優れた蘭学者が長崎を目指し、鳴滝塾に集いつつあるそうです。藤山先生はその話にたいそう感銘を受けて、さっさと蔵書と屋敷を売って金をつくると、長崎に行ってしまわれました」
「儒者が蘭学を究めに、長崎の異人のもとへ行ったというのか」
「さようです。手前はいくばくかの銭をいただき、好きに生きよ、と告げられてしましました」
(『義妹にちょっかいは無用にて(1)』P.116より)
将太の父邦斎と母君恵から江戸出てきて、大平家で奉公したいというわけを尋ねられた吾平は、主で儒者の中林藤山先生が長崎に行ってしまい、働くところがなくなった事情を語りました。
吾平のほかに、京都時代の学友で紀州の裕福な材木問屋の息子霖五郎や、たまたま知り合った旗本の橘朱之進、勇実の元の屋敷に越してきた浅原直之介、という、新しい仲間が加わり、どのような青春群像が繰り広げられるのか興味がつきません。
清楚で可憐なだけでない理世の魅力が弾ける第1巻。
兄が思うよりもずっと、義妹はしっかりとしておりまして。
『拙者、妹がおりまして』のファンには、ビッグ4(勇実、菊香、龍治、千紘)が登場するのもやっぱりうれしいところです。
続きが読みたくなるシリーズがまた一つできました。
義妹にちょっかいは無用にて(1)
馳月基矢
双葉社 双葉文庫
2023年10月11日第1刷発行
カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:Minoru
●目次
第一話 手習所「勇源堂」の師匠
第二話 鬼子の呪い
第三話 秋風が吹く頃
第四話 似ている二人
本文247ページ
文庫書き下ろし
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『拙者、妹がおりまして(1)』(馳月基矢・双葉文庫)
『義妹にちょっかいは無用にて(1)』(馳月基矢・双葉文庫)