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万造と松吉の運命的な出会い、おけら長屋の原点を楽しむ

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『本所おけら長屋 外伝』|畠山健二|PHP文芸文庫

本所おけら長屋 外伝シリーズ20作で、累計200万部突破とい大人気の「本所おけら長屋」シリーズ。
そのエピソード0(ゼロ)というべき、『本所おけら長屋 外伝』が刊行されました。

著者の畠山健二(はたけやまけんじ)さんは、東京生まれで本所(墨田区)育ちで、演芸の台本や演出を手掛けてきたお笑いのプロ。
本シリーズには、著者の経験に裏打ちされた、笑いと感動がいっぱい詰まっていて、一度作品を読んだ読者を虜(ファン)にします。
2023年3月発行の『本所おけら長屋(二十)』で第一幕は完結し、来春の第二幕スタートに向けて、今は幕間の時間。
読者を飽きさせないために、筆者が提供したのが、この『外伝』という名の、「本所おけら長屋」シリーズの前日譚(エピソードゼロ)です。

金はないが情はある、お節介で名高い「おけら長屋」を舞台にした大人気シリーズの“外伝”は、登場人物たちの若き日を描く前日譚。万造と松吉は、おけら長屋で出会った途端に意気投合するが……「馬鹿と外道は紙一重」、おけら長屋は実は“事故物件”!? 住民らに次々と災いが起きる中、長屋立ち退きの話まで持ち上がり……「金太が街にやってくる」他二編と、特別付録としてシリーズ第一幕の名場面ガイドを収録。

(『本所おけら長屋 外伝』カバー裏の内容紹介より)

ファンが知りたいことの一つが、おけら長屋の住人たちがどのようにしてこの長屋で暮らすことになったのかということ。とくに、本シリーズの主人公での万造と松吉の二人がおけら長屋に越してくることになった「馬鹿と外道は紙一重」は、「おけら長屋」ワールド全開で笑わせてくれます。

万造が本所亀沢町にあるおけら長屋の大家、徳兵衛を訪ねると、そこには先客の松吉がいました。

 万造と松吉はお互いに目を合わせると、ニヤリと笑った。徳兵衛は二人の顔を交互に見る。
「月の終わりに、翌月の店賃を持ってくること。よいですな」
 万造と松吉は大きくのけ反る。
「こ、こんな汚え長屋で店賃を取るんですかい」
「住んだら、金をくれるって聞いてきたんだけどよ」
 徳兵衛は手にしていた手紙を叩きつけるように置いた。
「そんな長屋がどこにある」
「どうやら、洒落は通じねえらしいな」
「ああ、こりゃ、苦労しそうだぜ」
 徳兵衛は吐き捨てるように――。
「苦労するのはこっちだ」
 
(『本所おけら長屋 外伝』「その壱 馬鹿と外道は紙一重」P.11より)

おけら長屋に住み始めた二十歳そこそこのころから、筋金の入った万松コンビのハチャメチャぶりが楽します。

物語の終盤で、万造と松吉は、おけら長屋で主(ぬし)のような左官の八五郎から、酒を飲みながら、「馬鹿と外道の違いがわかるか」と聞かれます。

「おれは、おめえたちのことが嫌えじゃねえよ。はじめて会ったときから面白え奴らだと思ってたぜ。だがよ、おけら長屋の住人になったからには、小一郎みてえな外道になりてえだなんて考え違えをしてもらっちゃ困るんでえ。馬鹿は好きだが、外道は許さねえ。それが、おけら長屋で暮らす者の決まり事でえ。わかったか」
 
(『本所おけら長屋 外伝』「その弐 馬鹿と外道は紙一重」P.64より)

小一郎は、長屋の住人で腕のいい髪結の大年増お蝶の家に転がり込んで、お蝶の稼ぎを当てにして毎日遊んでいる優男の遊び人です。

ウルッとさせて落とす良質の落語のような話は、本シリーズではおなじみとなった魅力のひとつです。

本書では、ほかにも、万造と松吉がおけら長屋に越してきてから二年後におけら長屋の守護神となる、金太をめぐるエピソード「金太が街にやってくる」や、上総久留田藩藩主の四男に生まれ、後に黒石藩藩主となる、津軽甲斐守高宗(幼名三十郎)が家督を得るきっかけとなった事件を綴った「家督は寝て待て」。信州諸川藩の剣術指南役の嫡男と生まれ、父の跡を継いだ藩が改易となり浪人となり、数年後に津軽黒石藩の剣術指南役の職を得た島田鉄斎が役目を辞して、江戸へ向かう途上、仙台で遭遇する騒動を描いた「みちのくさとり旅」の三編を収録しています。

いずれも「本所おけら長屋」の主要な登場人物たちの若き日の姿が描かれていて、今と変わらぬ性格や言動が楽しめ、さらにこのシリーズが好きになり、来春の第二幕スタートが待ち遠しくてなりません。

巻末の特別付録の名場面ガイドで、シリーズを簡単に振り返りできるのも好企画です。
本書で「本所おけら長屋」に興味を持たれた方は、1巻から読み始められることをおすすめします。

本所おけら長屋 外伝

畠山健二
PHP研究所・PHP文芸文庫
2023年9月15日 第1版第1刷

装丁:bookwarll
装画:倉橋三郎

目次
その壱 馬鹿と外道は紙一重
その弐 家督は寝て待て
その参 金太が街にやってくる
その四 みちのくさとり旅
特別付録 これだけははずせない! 第二幕を楽しむための名場面ガイド

本文279ページ

文庫書き下ろし。

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『本所おけら長屋 読み始めセット』(畠山健二・PHP文芸文庫)

畠山健二|時代小説ガイド
畠山健二|はたけやまけんじ|時代小説・作家 1957年、東京都目黒区生まれ、墨田区本所育ち。 演芸の台本執筆や演出、週刊誌のコラム連載など幅広く活動。 2012年、『スプラッシュ マウンテン』で小説家デビュー。 2013年、『本所おけら長屋...