『教養としての歴史小説』|今村翔吾|ダイヤモンド社
今村翔吾さんの自己啓発本、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)を読みました。
本書は、著者初のビジネスパーソン向けの自己啓発本です。
発売当初は、書店オーナー、TVコメンテーターやラジオのパーソナリティーに加え、ますます活動の幅を広げていっているなあと思いつつも、本の性格から読書の優先度を勝手に下げていました。
ところが、本書から勇気をもらったという、ある編集者に勧められて読み始めました。
本書では、教養という視点から歴史小説について語っていく。また歴史小説家を第1世代から第7世代まで分類して、わかりやすく歴史小説・歴史小説家を解説する。
小学5年生で歴史小説と出会い、中学生にして世にあるほぼすべての歴史小説を読破。ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた直木賞作家・今村翔吾。20代まで歴史とは無関係のダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら、歴史小説家を目指したという異色の作家が、一人の歴史小説ファンの視点から、また歴史小説家として、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身や、おすすめの作品までさまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
(『教養としての歴史小説』Amazonの説明文より)
Chat GPTに代表されるAIの時代に突入し、社会の急激な変化にともない、一度身につけた知識やスキルが簡単に陳腐化する時代になり、価値観も多様化している時代になっています。著者は、そこで生きていくためには、知識を「創造」に結び付ける力、幅広い物事に適応する「感性」、人間的な「魅力」を高めておく必要があり、時代に求められる能力は「教養」という言葉に象徴されていると説いています。
私は、教養を高める最も有力な手段は、歴史に学ぶことだと思っています。
なにしろ歴史には、これまでの人類の営みが凝縮されています。政治も経済も芸術も宗教も、すべて歴史を通じて参照できるのです。(『教養としての歴史小説』はじめに P.4より)
「はじめに」で著者はさらに、歴史を時系列で機械的に覚えさせようとする歴史の教科書や授業の進め方は、歴史を学ぼうとするやる気を失わせる原因となっている、好きな「時代」や「人物」から興味を広げていけば、確実に歴史がすきになる、そしてその導入として最適なのが「歴史小説」であると綴っています。
水先案内が魅力的かどうかは、私たち歴史小説家の腕次第。つまり、自分にあった作家の作品を読むことが、歴史から教養を身につける最良の手段といえるのです。
(『教養としての歴史小説』はじめに P.6より)
つまり、AI時代→教養が求められる→歴史に学ぶ→歴史小説が最適→自分にあった作家の作品を読む、というストーリーに沿って書かれています。
「教養は歴史小説に学べ」というメッセージに目から鱗が落ちました。
最近、歴史時代小説が今後どうなっていくのかを考える機会がありました。
読者が固定化かつ、高年齢化していく中で、作家、編集者、書店員など、歴史時代小説にかかわる人たちは、読者を開拓して増やしていくために、社会に対して何ができるのか、ひとり一人が真剣に考える重大な時期なのではないかと思いました。
面白い歴史時代小説を発表することはもちろんですが、それだけでなく、一人でも多くの方にその本を読んでもらうために何ができるのか、当サイトでも真剣に考えていきます。
(なんだか、少子化問題の対応策を考えることに相通じるところがあるようにも思えますが……。)
著者は、自身の歴史小説の出会いから小説家を志すに至る過去から入り、歴史小説を読むために最低限押さえておきたい基礎知識、歴史小説が教える人生の生き方、ビジネスに役立つ歴史小説などを具体的な作品名を解説しています。
本書は歴史小説の入門書ですが、時代小説ファンの方にも、共感できる部分が多く、今後の自身の読書を考える水先案内人となっていて、読まれることをおすすめします。
同時に、歴史小説に対する強烈なエール本でもあり、歴史小説の果たす役割の重要性と大きさを再確認するに最適なテキストでもあります。
かつて、司馬遼太郎さんの小説の主人公がビジネス経営者に大きな影響を与えて、ビジネス啓発本としても盛んに読まれた時代がありました。
また、池波正太郎さんのエッセーは、人生をよりよく生きるためのヒントがいっぱい詰まっています。
今村さんは本書で、歴史時代小説コーナーを飛び出して、ビジネス書コーナーに殴り込みをかけています。そこで、歴史小説の将来の読者となる人たちを開拓しているように見受けられます。今後も二の矢三の矢と後に続くことを願うとともの、その試みを応援したいと思います。
私自身も、時代小説が好きだと周りの人に話すのは気恥ずかしい、なかなかわかってもらえないのではという思いを持っていましたが、2年ぐらい前から、趣味を聞かれると、「時代小説が好きで、趣味のサイトをやっています」と言うようにしています。
そして、これからは、歴史時代小説こそ、これからも人生を生きるための最良の教科書であると。
教養としての歴史小説
今村翔吾
ダイヤモンド社
2023年8月29日第1刷発行
ブックデザイン:三森健太(JUNGLE)
イラスト:竹田嘉文
●目次
はじめに
序章 人生で大切なことは歴史小説に教わった
人生を変えた『真田太平記』
歴史小説に没頭する日々
好きが高じて小説家を志す
人生に必要なことは歴史小説から学んだ
日本人の考え方・生き方が凝縮されている
作家は歴史の“コンシェルジュ”
歴史小説と自己啓発は相性がいい
本を読むと教養が身につく
コラム 歴史小説の読者は男性が多い!?
第1章 歴史小説の基礎知識
「歴史小説」と「時代小説」の違い
歴史小説がテーマとする「歴史」
「歴史小説」と「歴史書」は別物
歴史小説の誕生期
現代では廃れてしまった「列伝物」
歴史小説が盛り上がったタイミング
歴史作家を世代別に分けてみた
コラム 大河ドラマの原作者になるということ
第2章 歴史小説が教える人としての生き方
歴史小説は“人生のカンニングペーパー”
なぜ歴史の偉人は大人びているのか
小説を読んで「死」について考えてみよう
池波正太郎に学んだお金の使い方
歴史小説には人生の名言がたくさん
コラム 歴史小説は「本屋大賞」で勝ちにくい!?
第3章 ビジネスに役立つ歴史小説
歴史小説の知識が経営に活きる
“引き際”を歴史に学ぶ
承継に失敗した組織は必ず潰れる
『名将言行録』はリーダーシップの教科書
昔と対比させて自分のキャリアを考える
歴史からイノベーションのヒントを得る
コラム 歴史に学ぶ外交交渉
第4章 教養が深まる歴史小説の活用法
歴史小説を読むと語彙が増える
初対面の人とも雑談がはずむ
歴史を学べば議論が深まる
グローバル時代だからこそ自国の歴史を学ぶ
答えは過去の歴史に示されている
ピンチに発動してきた日本の免疫力
歴史を踏まえて日本の教育を考える
もう一度チャレンジ精神をとり戻そう
ほかの学問にも興味が広がる
歴史小説をきっかけに学びを深める
コラム 日本の地名“消えすぎ問題”
第5章 歴史小説を読んで旅行を楽しむ
歴史小説を読めば旅の楽しさが倍増する
「古地図を歩く」という楽しみ方
食文化の違いに注目してみよう
「まつり旅」で感じた全国各地の風土
全国にある小説家の記念館
自分だけの歴史旅を楽しもう
コラム なぜ歴史小説は“長編優位”なのか
第6章 歴史小説 創作の舞台裏
歴史小説ができるまで
自分の足を運ぶことに価値がある
直木賞受賞作『塞王の盾』はこうして生まれた
ACジャパンのCMはネタの宝庫
ヒットした漫画はネタが練られている
時代劇不遇の時代に歴史小説を書く
新しいエンタメのフォーマットをとり入れる
新旧のエンタメをつなぎ合わせる
歴史作家を苦しめる“言葉の制約”
複数作品を並行して手がける手法
忘れることが創作にとって素晴らしい能力である理由
編集者は友達ではないが仲間である
出会いは必ず作品に反映される
コラム 会話文の作り方
第7章 教養としての歴史小説ガイド
【第一世代】大佛次郎(おさらぎ・じろう)
【第二世代】海音寺潮五郎(かいおんじ・ちょうごろう)
【第三世代】池波正太郎(いけなみ・しょうたろう)
【第三世代】司馬遼太郎(しば・りょうたろう)
【第三世代】藤沢周平(ふじさわ・しゅうへい)
【第三世代】山田風太郎(やまだ・ふうたろう)
【第三世代】遠藤周作(えんどう・しゅうさく)
【第四世代】北方謙三(きたかた・けんぞう)
【第四世代】浅田次郎(あさだ・じろう)
【第五世代】山本兼一(やまもと・けんいち)
【第六世代】朝井まかて(あさい・まかて)
【第七世代】今村翔吾(いまむら・しょうご)
コラム 人生のロールモデルを見つけよう
おわりに
本文277ページ
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『教養としての歴史小説』(今村翔吾・ダイヤモンド社)