『光と陰の紫式部』|三田誠広|作品社
三田誠広(みたまさひろ)さんの歴史時代小説、『光と陰の紫式部』(作品社)を紹介します。
2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」は1年間にわたって、『源氏物語』の作者、紫式部の生涯を描きます。主演の吉高由里子さんがどのように式部を演じるのか? 時の権力者となる藤原道長と式部の関係は? はたまた、ドラマの中で『源氏物語』はどのように取り入れられるのか、今から大いに気になります。
幼くして安倍晴明の弟子となり卓抜な能力を身に着けた香子=紫式部。皇后彰子と呼応して親政の回復と荘園整理を目指し、四人の娘を四代の天皇の中宮として皇子を天皇に据えて権勢を極める藤原道長と繰り広げられる宿縁の確執。
(本書カバー帯の紹介文より)
東宮師貞親王(後の花山帝)の副侍読という職についた、香子(紫式部)の父、藤原為時は、陰陽師の安倍晴明と知り合い、自邸に招きました。香子(かおりこ)の弟・惟規(のぶのり)の将来を占ってほしかったためでした。
晴明は、惟規については「若くして文章生(もんじょうしょう)となる」と語っただけでしたが、姉の香子の顔を見据えると、顔がこわばり、息を呑んだように香子の顔を見つめ続けました。やがて、喉の奥から絞り出すような声を洩らしました。
「稀有の相が出ておる……。国の親となりて、帝王の上なき位に昇るべき相なれども、さように見れば乱れ憂うることやあらんと思われる。かといって臣下として公の固めとなりて天下を輔ける方かと見れば、さような相とも思われず、まことにもって不可思議な相にして……」
(『光と陰の紫式部』 P.6より)
晴明は、いま語ったのは男児の場合で、女児の場合は何事が生じるのか予測がつかない、と予言し、この童女に天文学を学ばせたいのでを預からせてほしいと言い出しました。
香子は、陰陽寮に属する天文博士を務めている晴明のもとに貸し出されました。
晴明の邸宅に入った瞬間、香子は気が凝り固まって肩の上からかぶさってくるのを感じました。晴明によって式神を憑かされたのでした。
晴明のもとで、陰陽道を学んだ香子は、自身に憑いた式神の声を聞くことができ、晴明の書庫にある陰陽道や天文に関する書物をを手当たり次第に読み、占いや厄祓いの手伝いをしながら、成長していきます。
ある日、懐仁親王(後の一条帝)の実母・詮子(あきこ)の屋敷で、運命的な出会いをします。
「姉ぎみ、火急のご用とは何でしょうか。皇子がご病気だとは承知しておりますが、わたしは医者でも修験者でもないので、何の役にも立たないですよ」
皇嗣の親王が生きるか死ぬかという大事な時に、場をわきまえないのんびりした話し方で入ってきたのは、元服したばかりの少年だった。
香子は息を呑んだ。
美少年。
物語に出てきそうな貴公子だ。(『光と陰の紫式部』 P.28より)
右大臣藤原兼家の娘の詮子の同母弟・藤原道長の登場シーンで、二人の最初の出会いでもあります。
運命の二人がどのように物語の中で、関わっていくのか、本書のテーマの一つになっています。
道長の娘で入内する彰子も重要な登場人物です。
香子(紫式部)と五十年にわたってバディとして、帝が目指した親政による荘園整理を実現すべく、時には摂関家と対立することも。
紫式部が『源氏物語』に託した宿望も明らかになっていきます。
そして、紫式部が陰陽師安倍晴明の弟子になるという設定が秀逸。
「光る君へ」の時代を楽しむための一冊としておすすめの王朝歴史ロマンです。
光と陰の紫式部
三田誠広
作品社
2023年4月25日第1刷発行
カバー:紫式部(土佐光起画)
●目次
第一章 不可思議な未来が展ける
第二章 源氏の物語を書き始める
第三章 彰子入内と怨霊との対決
第四章 天満宮上空に北辰が輝く
第五章 皇子の誕生と望月の和歌
第六章 帝の夢を女院が引き継ぐ
天皇家と藤原家の婚姻関係図
本文271ページ
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『光と陰の紫式部』(三田誠広・作品社)