『尽くす誠の桑名藩の維新』|百舌鳥遼|人間社
百舌鳥遼(もず・りょう)さんの長編歴史小説、『尽くす誠の桑名藩の維新』(人間社)をご恵贈いただきました。
著者は、2006年に深水聡之名義で「犬坊狂恋」で第2回祭り街道文学賞(長野県阿南町が主催していた文学賞)を受賞し、さらに2007年に「妖異の棲む城――大和筒井党異聞」で、第13回歴史群像大賞最優秀賞を受賞してデビュー。
2014年3月に、伊能忠敬を隠密役とした、サスペンスタッチの時代小説『薩州隠密行 隠島の謎』(宝島社文庫)を発表しました。
このとき、文庫の帯に「幕府隠密の決死の薩摩測量行に心躍った!」という推薦のことばを載せていただきました。
久しぶりの新作を手にして、ワクワクした思いでいっぱいです。
将軍・慶喜に従い戊辰戦争で京から敗走した松平定敬(さだあき)は、各地で転戦し、箱館五稜郭に向かう。
そして主人を失った桑名城では、民百姓の命を優先する若きリーダー・酒井孫八郎が奇抜な説得工作で藩論をまとめ無血開城を果たす――。(『尽くす誠の桑名藩の維新』カバー袖の説明文より)
幕末の桑名藩というと、会津藩藩主松平容保(かたもり)の実弟松平定敬が藩主をつとめたことで知られています。定敬は、尊皇攘夷の志士と新選組が死闘を演じていた魔都・京で、容保の京都守護職を補佐する京都所司代に就いていました。
戊辰戦争では、徳川慶喜とともに大坂城から軍艦で江戸に密かに戻り、その後、各地を転戦し、五稜郭に向かうという、バリバリの佐幕派の殿様でした。
遠く遠く、はるか先を見据えるような眼差しを向けたまま、
「嬉しさよ 尽くす誠の あらわれて 君に代われる 死出の旅立ち」
重ねてきた星霜の重みを感じさせる、しわがれた声でつづけた。
「それは……、どなたかの辞世ですか」(『尽くす誠の桑名藩の維新』P.8より)
本書の主人公酒井孫八郎は、桑名藩の若き家老(惣宰)で、藩主定敬が江戸から蝦夷まで新政府軍と戦い続けるなかで、国元で幼い跡継ぎを推したてて新政府軍と交渉し、見事桑名藩を無血開城に導いた人物です。
徹底抗戦か、降伏恭順かで揺れる藩内、幕府への忠誠心と薩長への敵対心、桑名の町と民百姓を守ることの間で葛藤する武士たちを描いた歴史長編です。
幕末の桑名藩に誠を尽くした男たちの物語を、しばし楽しみたいと思います。
尽くす誠の桑名藩の維新
百舌鳥遼
発売:人間社、発行:樹林舎
2023年5月12日初版一刷発行
カバー図版:歌川芳盛『右幕下頼朝公渡海行粧之図』桑名市博物館所蔵
●目次
序章 ~極北の戦地から~
第一章 揺れる藩論
第二章 神籤の結末
第三章 和平を勝ち取れ
第四章 不敗の軍神
第五章 北越の死闘
第六章 それぞれの誠
第七章 鬼と人と
第八章 最後の試練
第九章 尽くす誠の
終章 ~語り継ぐ未来へ~
参考文献
本文375ページ
書き下ろし。
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『尽くす誠の桑名藩の維新』(百舌鳥遼・人間社)
『薩州隠密行 隠島の謎』(百舌鳥遼・宝島社文庫)