『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜5 鎮魂のランナバウト』|鳴神響一|幻冬舎文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし警察小説、『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜5 鎮魂のランナバウト』(幻冬舎文庫)を紹介します。
女子高生と見まごう童顔の美人警察官、細川春菜は、神奈川県警刑事部刑事総務課の捜査指揮・支援の専門捜査支援班に所属しています。専門知識を持った民間の捜査協力員=「ヲタク」の知識を借りて、難解な殺人事件の謎を解く、警察小説シリーズの第5弾です。
タイトルの「ランナバウト」とは、runabaout、「その辺を気軽に走り回る」の意味から、小型自動車を表すことも。本書では、1980年以前に製造された旧車の小型車のヲタクたちが登場します。
神奈川県南西部の震生湖で遺体となって発見された自動車評論家は、亡くなる直前に湖の駐車場で何者かに会っていたと推察された。
捜査一課の浅野康長から捜査の応援要請を受けた細川春菜は、被害者が旧車の愛好家だったことから、その方面に詳しい登録捜査協力員との面談を重ね、事件の背後関係を探る。やがて浮かび上がった驚くべき事実とは……?(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜5 鎮魂のランナバウト』カバー裏の紹介文より)
先週、七月二十九日の朝、秦野市と足柄上郡中井町にまたがる震生湖で、自動車評論家の天堂頼人が遺体で見つかりました。死亡推定時間は、水に浸かっていたことから幅が出て、七月二十八日の午後六時から七月二十九日の御前二時ごろまでの約八時間。
震生湖駐車場に近くの林のなかに被害者所有のバイクが残されていました。また、被害者本人と思われる姿は二十八日午後八時過ぎに、横須賀市久里浜六丁目にある自宅マンションの屋外駐車場にポルシェ356Cを停めていた画像が残っていて死亡推定時間はさらに狭められることに。
捜査一課の浅野康長から、支援を求められた細川春菜は、登録捜査協力員の名簿から、《自動車》ジャンルのなかから備考に「ノスタルジックカー・旧車」の記載があった該当しそうな三人を選び、アポを取り、捜査につながるような有益な話を聞くことに。
「もし、差し支えなければ、わたしも同行してお手伝いsたいのですが」
遠慮がちに赤松が申し出た。
「え……赤松は忙しいだろう。俺と細川のふたりでじゅうぶんだよ」
けげんな顔で康長が言った。
「もちろんでしょうが、わたしもね、旧車と呼ばれるクルマを所有しております。それでまぁ、イタリアの旧車にはいささか知識があるものですから……」(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜5 鎮魂のランナバウト』P.29より)
浅野の元同僚で、支援センターの班長で春菜の上司、経済・経営・法学系の学者を担当している警部補赤松富祐は、二代目のフィアット500(チンクエチェント)を保有している旧車ヲタクでもあり、二人に協力をして重要な示唆をします。
フィアット600ムルティプラ、フォルクスワーゲン・ビートル、シトロエン・アミ、オースティン・ミニ・カントリーマン、バンデンプラ・プリンセス、BMWイセッタ、トヨタ・パブリカ・コンバーチブルなど、だれもが一度は見かけたことがある懐かしい旧車が続々と登場します。
本書では、赤松のほかにも三人の協力者や旧車ショップオーナーなどが、旧車に関する基礎知識とともに、事件を解決するための手掛かりを与えていくところが、最大の読みどころです。
今回も春菜に導かれて、旧車の世界の一端に触れて、ワクワクしながら読むことができました。門外漢でも楽しめる工夫がされたこのパターンの謎解きの魅力にすっかりとはまってしまいました。
ビートルズの名盤「アビー・ロード」のジャケットをオマージュした、田中寛崇さんの表紙装画も素敵で、印象に残りました。
神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜5 鎮魂のランナバウト
鳴神響一
幻冬舎 幻冬舎文庫
2023年7月10日初版発行
カバーデザイン:舘山一大
カバーイラスト:田中寛崇
●目次
第一章 ノスタルジックカーの幻影
第二章 旧車に恋する人々
第三章 悲劇のワインディングロード
本文256ページ
文庫書き下ろし
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『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜5 鎮魂のランナバウト』(鳴神響一・幻冬舎文庫)