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料理上手な14歳の女将なびきが謎を解く、江戸前ミステリー

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『煮売屋なびきの謎解き仕度』|汀こるもの|時代小説文庫

煮売屋なびきの謎解き仕度汀こるもの(みぎわこるもの)さんの文庫書き下ろし時代小説、『煮売屋なびきの謎解き仕度』(時代小説文庫)を紹介します。

著者は、2008年、『パラダイス・クローズド』で第37回メフィスト賞を受賞し、デビュー。ミステリー畑を中心に活躍し、2020年、平安ラブコメミステリー『探偵は御簾の中 検非違使と奥様の平安事件簿』を発表。
本書では、第12回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞の候補作品となりました。(同賞は、歴史時代小説分野で3年未満のキャリアの作家を対象にし、他のジャンルでのキャリアは問わないものとなっています)

なびきは幼い頃に親兄弟とはぐれ、神田に煮売屋を営む久蔵に引き取られた。養親となった久蔵が富士の親までのご来光を拝むために旅立ったことで、十四歳のなびきが女将として、間口二間で二階建ての店を任される。久蔵が残した「神棚の神さまへの供えだけは忘れるな」という教えと、料理の腕で店の切り盛りは何とかなるものの、靡きを悩ませるのは、店に持ち込まれるお客たちの事件や謎だった。不思議な神さまのお告げと持ち前の鋭さで、なびきは難事を乗り越えていくのだが……。美味しい料理と事件の謎が彩る、江戸前ミステリーの誕生。

(『煮売屋なびきの謎解き仕度』カバー帯の紹介文より)

なびきは十四歳。十年前(文化三年)、車町火事(江戸三大大火の一つで丙寅の大火)に遭い、両親と兄と生き別れ、神田紺屋町の煮売り屋を営む久蔵に引き取られたのでした。

久蔵は、店の名を“かんなび”から“なびき”に変え、なびきを育ててきましたが、三日前の立秋に旅に出ました。
「六十の誕生日に富士のお山でご来光を拝みたい」「一世一代のじじいのわがまま」と言われて、なびきは止められなくなりました。

「なびきよ、旅の間はわしに代わってお前が神棚の“飯の神さま”にお供えをせよ」
 更にそう言われて、なびきは動揺した――。

(『煮売屋なびきの謎解き仕度』P.11より)

煮売り屋“なびき”では大きな神棚があり、“飯の神さま”を祀っています。
初代、久蔵、なびきと三代にわたり、朝昼晩の一日三回、ご飯を作ってこの神さまに供えて残りを撤饌として客に食べさせるのでした。
こうしてなびきは養い親を見送り、女将で調理人として留守を守ることとなりました。

「で、お前は今朝、久蔵じいさんに代わって神さまのお告げの夢を見た?」
 辰が忌々しげに問うた。
「どんな夢を?」

(『煮売屋なびきの謎解き仕度』P.14より)

“なびき”に毎日出入りしている棒手振の辰がなびきに夢のお告げを尋ねました。

それは、天女のような美しい女神が、歌いながらお手玉をしているというもので、お手玉は蛤でした。歌はよく聞くと、“七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき”と言っていました。
 
どういう意味があるのでしょうか。
なびきはお告げに従って、辰から蛤を四つだけ買いました。
すると……。

煮売り屋の“なびき”には個性的な面々が集います。
辰のほかにも、大工の嫁ですが、亭主が病がちで店を手伝う料理が苦手なおくま、遊女のような派手な小袖に虚無僧の天蓋と尺八を手にした美少女おしず、大店の廻船問屋の次男坊の由二郎、六尺五分の巨躯を鼻にかけて売上をかすめる小者の大寅など。

嫁に行ってもおかしくない歳の割には童顔で、子どもに見られてしまうなびき。主の留守を懸命に守るけなげさと奮闘ぶり、美味しい料理の数々が魅力です。
殺人などの血なまぐさい事件は起こりませんが、登場人物たちの会話の掛け合いが楽しく、“飯の神さま”に導かれたような騒動や謎を鮮やかに解き明かすなびきの洞察力と推理力にも目を見張らされます。

物語の中では、江戸の風習や知識も自然に身に付く、江戸前ミステリー。
第2弾の『贋富くじと若さま 煮売屋なびきの謎解き仕度』も刊行され、ますます気になるシリーズです。

煮売屋なびきの謎解き仕度

汀こるもの
角川春樹事務所・時代小説文庫
2022年10月18日第一刷発行

装画:立原圭子
装幀:五十嵐徹(芦澤泰偉事務所)

●目次
一話 実の一つだに
二話 甘酒と白雪糕
三話 雨の日の江戸はとことん眠い
四話 和蘭陀時計の謎

本文332ページ

文庫書き下ろし

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『煮売屋なびきの謎解き仕度』(汀こるもの・時代小説文庫)
『贋富くじと若さま 煮売屋なびきの謎解き仕度』(汀こるもの・時代小説文庫)

汀こるもの|時代小説ガイド
汀こるもの|みぎわこるもの|ミステリー小説家 1977年生まれ。大阪府出身。追手門学院大学文学部卒。 2008年、『パラダイス・クローズド』で第37回メフィスト賞を受賞し、にデビュー。 時代小説SHOW 投稿記事 著者のホームページ・SNS...