『はぐれ又兵衛例繰控(七) 為せば成る』|坂岡真|双葉文庫
坂岡真(さかおかしん)さんの文庫書き下ろし時代小説、『はぐれ又兵衛例繰控(七) 為せば成る』(双葉文庫)を紹介します。
南町奉行所の例繰方与力をつとめる平手又兵衛は、出世や権力争いに全く興味がなく、奉行所内で「はぐれ」と呼ばれる変わり者。
内勤の町方役人の又兵衛が、表立って裁けない悪に対して、陰で密かに懲らしめる、痛快シリーズの第7弾です。
江戸市中を騒がす、ざんぐり党なる凶賊があらわれた。出役の助っ人に駆りだされた又兵衛は、空振りに終わった帰路に、市来数馬と名乗る若侍と出会う。元米沢藩の原方衆だという数馬は、八年前に殺された父の仇を捜しているらしい。数馬の仇討ちの成就を願う又兵衛だが、おもわぬところから仇の消息の手掛かりを掴み――。怒りに月代朱に染めて、許せぬ悪を影裁き。時代小説界の至宝、坂岡真が贈る令和最強の時代シリーズ第七弾!
(『はぐれ又兵衛例繰控(七) 為せば成る』カバー裏の内容紹介より)
時代は、文政五年(1822)霜月。
ざんぐり党という凶賊が商家を襲うという訴人があり、出役の助っ人として出張った又兵衛だが、手の内を見極められているのか空振りに終わりました。
その帰り路、又兵衛は行倒れの男を拾います。男は元米沢藩上杉家の家臣で、八年前から父の仇を捜し続けていましたが、空腹のあまり倒れていたと。
仇は、小園十兵衛という藩の槍師範で、菊池槍を常に帯に差し、数馬の父を城下の道端ですれ違いざまに何の前触れも無く刺突しました。
しかも、父がいつも携えていた家宝の堀川国広を盗んで出奔したと言います。
数馬から事情を聞いた又兵衛は、どうにか助けてやりたい気持ちに衝き動かされて、数馬の仇討ちを手助けすることに。
数馬の父は上杉家でも、原方衆(はらかたしゅう)と呼ばれる身分の低い藩士でした。
「城下の連中からは、糞つかみと蔑まれておりました。それゆえ、父の死も当初はさほどの大事にならなかった。百姓の訴えがあったにもかかわらず、目付筋は辻斬りと断じたほどにござりました」
(『はぐれ又兵衛例繰控(七) 為せば成る』「為せば成る」P.131より)
一方、四谷の鮫ヶ橋では、柳の木陰で佇んでいた夜鷹が野良犬のようにばっさりと斬られる辻斬りが起きました。
辻斬りの侍は、痩せてひょろ長い四十絡みの男で、帯に三刀を差していたとか。
巷間を騒がしているざんぐり党の首魁の十兵衛も「三刀差し」の異名で呼ばれていました。
「ざんぐり」という奇妙な名は、名刀の肌目を表現する言葉で、とくに堀川国広一門の特長のひとつだです。
又兵衛は江戸を震撼させるざんぐり党を捕らえて、数馬の仇討ちを成就させることができるのでしょうか?
表題作のほか、筆屋の妾殺しで訴えられながら、笞打ちや石抱き、海老責めといった過酷な責め苦に耐え続けて、罪を認めない手代を描いた「察斗詰(さっとづめ)に候」を収録。
察斗詰とは、容疑者が自白しなくとも、証拠が明白な場合、処刑できるようにするための規定のこと。
自白を引き出すために笞打ちや石抱きや海老責めまで吟味方の裁量で行うことができたため、察斗詰は吟味方にとって負けを意味していました。
また、本書の最終話「投げ文」では、又兵衛の幼馴染の鍼医者、長元坊の十八年前の悲恋が描かれています。
二十一で寺を放逐された破戒僧の長元坊。その裏には、初めて本気で愛した女の存在がありました。
失踪した親友の行方を追って、本来の役目を全うせずに勝手に探索を行う又兵衛、無実と信じながらもその安否に一喜一憂する、心が通う関係というのがひしひしと伝わってきます。
読み終わった時、「人生ってこんなもんだ。運命に抗うことはできねえ」という長元坊の言葉が耳に残りました。
シリーズの中でも大好きな話の一つになりました。
はぐれ又兵衛例繰控(七) 為せば成る
坂岡真
双葉社 双葉文庫
2023年6月17日第1刷発行
カバーデザイン:鳥井和昌
カバーイラストレーション:村田涼平
●目次
察斗詰に候
為せば成る
投げ文
本文344ページ
文庫書き下ろし
■Amazon.co.jp
『はぐれ又兵衛例繰控(一) 駆込み女』(坂岡真・双葉文庫)
『はぐれ又兵衛例繰控(七) 為せば成る』(坂岡真・双葉文庫)