『ナンバー2の日本史 近現代篇』|榎本秋|MdN新書
作家で文芸評論家、出版プロデューサーの榎本秋(えのもとあき)さんの歴史読み物、『ナンバー2の日本史 近現代篇』(MdN新書)を紹介します。
本書は、古代・卑弥呼の時代から平安、鎌倉、室町、戦国、江戸時代まで、ナンバー2を追いかけた本『ナンバー2の日本史』の続編です。
本書では明治、大正、昭和という近現代の政治的ナンバー2を紹介していきます。
「総理」は主役か、脇役か?
八〇〇年の長きにわたって政権の座にいた武士が退き、日本は新しい時代を迎えた。
新時代において、ナンバーワンとナンバー2の在り方はどのように変わっていったのか。
明治・大正・昭和で登場する新役職「総理大臣」。
そもそも曾利はナンバーワンなのか、ナンバー2なのか。
日本が世界を巻き込んで変革する時代の新たな実力者を探す、「ナンバー2の日本史」の第二弾!(『ナンバー2の日本史 近現代篇』カバー帯の紹介より)
明治より前の時代、天皇そのものが名目上はナンバーワンですが、政治的な実態はほとんどない存在だったため、権力構造の中でナンバーワン(将軍など)とその下で実際に政治を行う執権や管領、老中などのナンバー2が、その時代ごとに力を発揮していました。
江戸幕府が打ち倒されて明治新政府が立った後の近代日本において、政治的ナンバーワンは、ただ一人で確定している。すなわち天皇である。大日本帝国憲法が第一条で「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」としている通り、近代日本の元首=ナンバーワンは天皇だ。
(『ナンバー2の日本史 近現代篇』P.4より)
ところが、明治新政府になると、大日本帝国の元首(=ナンバーワン)は天皇ということになります。明治の元勲や総理大臣など実務を行う権力者たちはナンバー2になります。
彼らの事績や人間像に迫ることは、そのまま、明治から大正、昭和(戦前、船中、戦後)といった歴史を辿ることなります。
目まぐるしく変化している政治と社会の動きを、ナンバー2に光を当てて見ていく本書はスリリングで興味深い歴史の語り部となっています。
また、戦後日本が連合国による占領、GHQの統治を経て、日本国憲法に基づく現代日本の政治体制をつくり、これが変遷していく中で、天皇は象徴となり、総理大臣がナンバーワンとなり、黒幕的ポジションの人物をナンバー2として取りあげていきます。
コンパクトにまとめられていて、短時間で明治以降の歴史、とくに歴代の総理大臣が在任中に何を成し遂げ、なにゆえナンバー2の座を去ったのか、を理解するのに格好のテキストとなっています。
ナンバー2の日本史 近現代篇
榎本秋
発行:エムディエヌコーポレーション MdN新書
発売:インプレス
2023年6月11日初版第1刷発行
Book belt design:tokyo synergetics
●目次
はじめに
第一章 新政府のナンバー2
江戸幕府の崩壊から明治新政府へ
明治新政府のナンバー2
西郷隆盛の明治以前
大久保利通の明治以前
木戸孝允(桂小五郎)の明治以前
岩倉具視の明治以前
三条実美の明治以前
「王政復古の大号令」時点の新政府要職
太政官制度の樹立
木戸が奔走した版籍奉還
西郷の力があってこその廃藩置県
征韓論と明治六年の政変
西南戦争と西郷の死
木戸と大久保の退場
コラム 佐幕派のナンバー2
第二章 明治時代のナンバー2
ナンバーワンとナンバー2の関係
立憲政治へ
大久保の後継者
明治十四年の政変
初代内閣総理大臣の登場
憲法制定へ
酒癖が悪い二代目総理
陸軍の大物
大宰相主義から小宰相主義へ
新政府きっての財政のプロ
再び総理の座へ
念願の条約改正と日清戦争
二度も政権運営に失敗
伊藤、三度目の総理就任
日本初の政党内閣誕生
自由民権運動のさきがけ
「板隈内閣」の崩壊
二度目の総理のちキングメーカーへ
内部分裂で四度目は終わる
生粋の山縣派総理
日露戦争の勝利は山縣閥のおかげ
桂と西園寺の総理時代
公家出身の総理大臣
代理人内閣という表と暗躍の裏
桂の課題と野心
陸軍に追い込まれ総辞職
候補者が出ず再々登板
国民の怒りが爆発し退陣へ
主要人物のその後
コラム 明治時代の元老
第三章 大正・戦前のナンバー2
敗戦へつながった三十年
薩摩閥の生き残り
大隈、十六年ぶりの復活
第一次世界大戦と日本
大隈人気の陰り
長州山縣閥のビリケン宰相
対中政策の失敗とシベリア出兵
米騒動から寺内内閣h鵜飼
絶大な人気を誇った「平民宰相」
原内閣の四本柱
原内閣の失速と非業の死
総理は敏腕大蔵大臣
燃え尽きる前に軍縮を実行
大震災と狙撃事件に翻弄
貴族内閣の末路
政党政治誕生の立役者
護憲三派の結束と法界
力不足のうそつき総理
陸軍のエリート総理
凶弾に倒れるライオン首相
軍部の暴走を阻止できず
「憲政の神様」の登場
テロのターゲット
コラム 大正時代の元老
第四章 挙国一致時代のナンバー2
「挙国一致」の夢と法界
挙国一致でつかの間の平和
軍部に振り回される清廉な人
叛乱軍の暗殺対象者
軍部の横やり
宇垣内閣流産事件
成果のなかった越境将軍
プリンス総理の登場
ファシズムの総本山
独ソの事情で総辞職
評価は弱体で無能な内閣
海軍良識派の大将
軍部の暴走を招いた反陸軍のスタンス
重臣会議と内大臣
プリンスが導いた開戦への道
戦争に引き込んだ張本人?
戦況悪化を防げぬまま
大戦を終わらせた男
開戦に抵抗した現場のトップ
コラム 絶対的な権力「GHQ」
第五章 戦後日本のナンバー2
戦後日本のナンバーワン、ナンバー2
役が重すぎた東久邇稔彦内閣
GHQに振り回された幣原内閣
鳩山に代わって立った吉田茂
中道政権の片山内閣・芦田内閣
独立回復にこぎつけた吉田茂
吉田と鳩山の対立
吉田政権の終わり
「じいさん」の側近
五五体制と国際社会復帰
自民党の実力者たち
派閥の力学
昭和の妖怪
秀吉になぞられた庶民総理
田中を裏切った調整役
ドンと呼ばれた男
五五年体制は如何に崩壊したか
コラム 政府のナンバー2
おわりに
参考文献
本文252ページ
■Amazon.co.jp
『ナンバー2の日本史』(榎本秋・MdN新書)
『ナンバー2の日本史 近現代篇』(榎本秋・MdN新書)