『イクサガミ 地』|今村翔吾|講談社文庫
今村翔吾の文庫書き下ろし時代小説、『イクサガミ 地』(講談社文庫)を紹介します。
本書は、「時代小説SHOW」2022年時代小説ベスト10の文庫書下ろし部門第1位に推した『イクサガミ 天』の続編で、三部作の第2巻です。
帯には青地に銀で「第1位」の文字が入り、双葉さんが描かれた表紙装画とあいまって鮮やかに目に飛び込んできました。
東京を目指し、共に旅路を行く少女・双葉が攫われた。夜半、剣客・愁二郎を待ち受けていたのは、十三年ぶりに顔を合わせる義弟・祇園三助。東海道を舞台にした大金を巡る死闘「蠱毒(こどく)」に、兄弟の宿命が絡み合う――。文明開化の世、侍たちの『最後の戦い』を描く明治三部作。待望の第二巻!
(『イクサガミ 地』カバー裏の紹介より)
江戸三大道場の一つ、「練兵館」で、剣術の腕前が師の斎藤弥九郎と同等かそれ以上ではないかと噂される仏生寺弥助の物語から始まります。
やがて、弥助は斎藤弥九郎に勧められて、尊王攘夷を掲げた志士と、それを取り締まる瀑布との間で、血で血を洗うような抗争が繰り広げられている、幕末の京へ赴きました。
弥助がどのような形で、明治の世に、全国から集められた剣豪たちが繰り広げられるデスゲーム「蠱毒」にかかわっていくのか、冒頭からワクワク感が高まっていきます。
東海道・宮宿で、己の油断から同行する少女双葉を攫われた嵯峨愁二郎は、隣りの鳴海宿を目指しました。
「これは……」
掌一つ分ほどの紙に文字が書かれている。そこには義兄を懐かしむ言葉はおろか、恨み節の一つも書かれてはいない。ただ一言、
――十日午前二時、戦人塚。
とあった。(『イクサガミ 地』P.24より)
愁二郎の左袖に、いつの間にか小さく折り畳まれた紙が入っていました。双葉を人質として連れ去ったのは、愁二郎の義弟の祇園三郎でした。
双葉を攫い、義兄を真夜中の戦人塚に呼び出した、三郎の狙いは何なのでしょうか?
「蠱毒」には、三郎のほかにも、愁二郎の義弟妹の化野四蔵、蹴上甚六、衣笠彩八らが参加していました。
皆、孤児として鞍馬山で一緒に育てられ、京八流の厳しい修行で奥義を修得し、京都の地名を姓に付けられた者たちです。
自らの命を賭け札に、バトルロイヤルに挑む剣客たちの闘いに、京八流の継承者を狙う者たちの争い、さらにはその継承戦から逃げた者を刈る殺し屋幻刀斎まで加わり、デスゲームの行方はさらに混沌としていきます。
「私も……一緒に戦います」
「駄目に決まっている」
愁二郎はすぐさま止めた。四蔵も意にも介さない。ただ彩八だけは、何故か表情が真剣なものに変っている。
「私なんかが太刀打ち出来る訳ないって解っている。でも一瞬だとしても、引き付けられる」(『イクサガミ 地』P.132より)
最強の幻刀斎を前に打つ手が見つからない愁二郎ら兄弟たちに対して、「蠱毒」の参加者で最弱の十二歳の少女双葉は、ある案を出しました。弱き者だからこそ気づくことができるものでした……。
「地」の巻では、双葉が大きな役割を演じ、読みどころの一つとなっています。
「蠱毒」を企画し、運営する組織とその黒幕の存在、デスゲームに隠された目的、驚天動地の秘密も次第に明らかになっていきます。
全編通じてアクションシーンの連続で、ハラハラドキドキ、手に汗握る展開ですが、後半ではさらに文明開化の世に仕掛けられた恐るべき陰謀と対決、そして有名な事件が描かれ、面白さがてんこ盛りで、興奮はMAXに。
『イクサガミ 天』よりもさらにパワーアップし、エンタメ度も増幅された本書は一気読み必至。
15か月間待ち続けた甲斐がありました。
三巻目の刊行が今から待ち遠しいです。
イクサガミ 地
今村翔吾
講談社 講談社文庫
2023年5月16日第1刷発行
カバー装画:石田スイ
カバーデザイン:長崎綾(next door design)
●目次
壱ノ章 仏生寺弥助
弐ノ章 戦人塚
参ノ章 鞍馬より歳月
肆ノ章 郵便屋さん
伍ノ章 天明
陸ノ章 碧眼の騎士
漆ノ章 局戦
捌ノ章 浜松攻防
玖ノ章 紀尾井坂へ
本文451ページ
初出:「壱ノ章 仏生寺弥助」は、「小説現代」2022年4月号に掲載されました。
その他は書き下ろしです。
■Amazon.co.jp
『イクサガミ 天』(今村翔吾・講談社文庫)(第1巻)
『イクサガミ 地』(今村翔吾・講談社文庫)(第2巻)