『かなりあ堂迷鳥草子』|和久井清水|講談社文庫
和久井清水(わくいきよみ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『かなりあ堂迷鳥草子(めいちょうぞうし)』(講談社文庫)紹介します。
待望のゴールデンウィークがやってきました。
不幸事もあった今年は、出かける予定はなく、ほとんどを家で過ごすことになるでしょう。
そこで、この機会に読みたいと思いながらも買ったままで積読となっている本の山に挑みたいと思います。
最初に手にしたのは、江戸で小鳥専門のペットショップである飼鳥屋(かいとりや)を描く文庫書き下ろし時代小説、『かなりあ堂迷鳥草子』です。
「カナリア堂」の看板娘、お遥(はる)のハツラツとした活躍ぶりが楽しみ。
著者は、2015年に第61回江戸川乱歩賞候補となり、同年、宮畑ミステリー大賞特別賞を受賞し、ミステリー分野で活躍されてきて、本作が時代小説デビュー作です。
メジロ、ホトトギス、カナリア……小鳥たちが鳥籠で羽ばたきをしている。近頃江戸では小鳥を買うのが大人気。兄と二人で飼鳥屋「かなりあ堂」を営む十六歳のお遥は、お転婆などと言われても気にしない。噂の幽霊の正体を知ろうと駆けだしていく。江戸の「鳥」たちが謎をよぶ時代ミステリー。
(『かなりあ堂迷鳥草子』カバー裏の紹介文より)
お遥は、ある日の早朝、雑司ヶ谷の幽霊坂で赤ん坊の泣き声のような、それとは微妙に違う謎の声を聞きました。何かを訴えるようなせつない泣き声、振り絞るように力の限り泣き、息が続かなくなると引き攣るようにしゃくり上げてまた泣く、その声は、一瞬にして反対側の塀の中に移動しました。
赤ん坊の幽霊?
お遥は怖くなって無我夢中で平川町にある「かなりあ堂」に逃げ帰りました。
「私ね、幽霊にあったの」
「幽霊だって?」
徳造はまるで自分が幽霊にあったかのように目を丸くした。
「だけど、こんな朝っぱらから幽霊が出たのかい」
「幽霊じゃなかったかも」
あれは、ただの赤ん坊の泣き声……。
(『かなりあ堂迷鳥草子』 P.13より)
徳造は今年三十になる兄で、お遥が生まれてすぐに亡くなった両親の代わりに、お遥を育ててくれた親代わりでもあります。
徳造は手先が器用な上にまめで、小鳥の世話はもちろん、食事の支度から繕い物や着物の洗い張りまでやってしまいますが、商売には向いておらず、気の弱さもあって儲けを抜きに客の言いなりなってしまうことも。
かなりあ堂にはたくさんの小鳥がいて、江戸では小鳥を飼うのが大人気で、兄と二人で食べていくには十分と言えないまでもさほど不自由がないほどの実入りがありました。
しかし、お遥には大きな夢があって、その元手を貯めるため日々頑張っていました。
かなりあ堂で売る小鳥は、たいていは問屋から仕入れますが、たまにお遥が護国寺や鬼子母神の森にウグイスやエナガなど小鳥を捕まえに行って、売り上げの悪い月は帳尻を合わせていました。
お遥は、近所には赤ん坊を生後六ヵ月で亡くし気鬱になってしまった鋳掛屋の女房お夏がいて何とか元気付けたいと。
人情に厚く、好奇心の強い、お転婆な16歳の娘お遥は、赤ん坊の幽霊が出る噂の真相を探りに、店を飛び出して再び幽霊坂に向かいました……。
本書では、近所の八百屋で売り上げを盗む犯人捜しや、店のお客さんの父が犯した重罪の理由、鶉合わせで一番の折り紙の付いた高値の鶉をめぐる騒動など、一話完結の連作形式で、周辺で起こる「鳥」にかかわる事件をお遥が解き明かしていきます。
隣りで八百屋を営むお種、鳥見組頭の嫡男で今は鳥見役として御鷹場の御用をしえちる八田伊織、逃げた鳥の代わりに「かなりあ堂」に小鳥を買いに来た旗本屋敷の女中佐都(さと)ら、ユニークな登場人物が物語に絡んでいきます。
鳥の名を冠せられた各話では、「鳥」をめぐる謎解きが楽しめる時代ミステリーとなっていて、さらに物語全体を通じて、「かなりあ堂」の兄妹の出生にまつわる秘密も明かされていきます。
愛らしい鳥たちの様子が随所に描かれるとともに、兄想い・妹想い、二人の心情も描かれていて、読んでいると癒されて、心がじんわりと温かくなります。
小鳥好きでなくても楽しめる時代小説で、続編が読みたくなりました。
かなりあ堂迷鳥草子
和久井清水
講談社・講談社文庫
2022年10月14日第1刷発行
カバー装画:中島陽子
カバーデザイン:赤波江春奈
●目次
第一話 木菟(みみずく)
第二話 山雀(やまがら)
第三話 鶴
第四話 鶉
第五話 鸚鵡
本文246ページ
文庫書き下ろし。
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『かなりあ堂迷鳥草子』(和久井清水・講談社文庫)