『拙者、妹がおりまして(9)』|馳月基矢|双葉文庫
馳月基矢(はせつきもとや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『拙者、妹がおりまして(9)』(双葉文庫)を紹介します。
本所相生町で手習所を営む御家人白瀧勇実と妹千紘、白瀧家の屋敷の隣にある剣術道場の師範代で跡取り息子の矢島龍治、家禄百五十石の旗本の娘・亀岡菊香。四人の若者の日常の出来事と恋を描く青春時代小説の第9弾です。
世にも稀な、姉妹二人との同時見合いをした菊香の弟・貞次郎だったが、どちらを選ぶか決心したと白瀧勇実に話す。そこに顔を出した菊香が己の身を卑下するのに対し、勇実は不用意な発言をしてひどく怒らせてしまう。一方、手柄を立てた同心の岡本達之進は、褒美に女中をしているおえんを正妻として迎えることを奉行所にきっぱりと願い出る。すでに腹に子もいるのだと。そして千紘をめぐっても、本人の知らないところで恋の鞘当てがあり……方々で胸騒ぎを覚える人気シリーズ第9弾!
(『拙者、妹がおりまして(9)』カバー裏の内容紹介より)
文政六年(1823)の秋、九月。
手習所の師匠として身を立てるべく、中之郷の旗本屋敷へ通って子弟に学びを授ける傍ら、勇実の手習所に二日に一度手伝いに来ている、勇実より六つ年下の若者・大平将太。
勇実は、弁当を半分食べたところでぼんやりしている将太に声を掛けた。
「将太、どうしたんだ? 近頃、元気がないな。悩み事があるなら、話を聞くぞ。将太? おい、将太」
重ねて呼びかけ、肩まで揺すってやって、将太はようやく、はっと顔を上げた。
(『拙者、妹がおりまして(9)』P.11より)
「確かに、悩んでます」という将太。
将太によると、妹ができたと言います。ただ、血のつながった妹ではなく養女だと。
長崎の薬種問屋の十七歳の娘理世は、縁談のため、一人で江戸にやってきて大平家の養女となりました。
ところが、その縁談が反故になってしまい、新たな縁談が見つかるまで、大平家にそのまま居ると言います。
しかも、その義妹に将太は、一目惚れをしてしまったと。それが苦しくて、胸に悩み事を抱えているとも。
シリーズ名をもじった「拙者、妹ができまして」の題名が面白く、微笑ましい一編です。
第二話「悪縁」では、勇実の友人、尾花琢馬の兄の仇が見つかります。
ところが、その男は勇実たちとも因縁があり、浅草を根城に悪事を働く火牛党の一員でした。
第三話の「年貢の納め時」では、菊香の弟で小十人組の見習いとして出仕している亀岡貞次郎は、屋敷に勇実を招いて、見合いをした二人の姉妹のどちらを選ぶか決めたことを相談していました。
そこに、菊香がお茶を持って、貞次郎の部屋に入ってきました。
自分を卑下するようなことを言う菊香に対して、不用意な発言をして、怒らせてしまう勇実。
大事な場面で、気持ちが空回りして頭に血が上ってうかつなことを口走ってしまいます。
話せば話すほどしくじりが広がり、遂には菊香は部屋を出ていってしました。
すっかり固まっていた貞次郎が、ぽつんと言った。
「何だったんだ? 姉上の本音も、ちっともわからない。なぜ急に、あんなに怒ったんだろう?」
勇実は、もうどうしようもなくて、笑った。
「振られてしまったな」
率直な言葉が口をついて出て、勇実の胸をえぐった。
(『拙者、妹がおりまして(9)』P.156より)
ああ、今回も、勇実と菊香のなかなか進展しない仲に、もどかしさとじれったさを感じながらも、キュンとするような思いも感じます。
まさに青春真っただ中です。
第四話「分かれ道の手前」は、千紘の縁談話をめぐり、二人の男が恋の鞘当てをします。ドキドキするような展開の行方は?
若者たちの恋と成長を描く青春群像小説に、時折、捕物が挟まれて、ますます目が離せません。次号が待ち遠しいです。
拙者、妹がおりまして(9)
馳月基矢
双葉社 双葉文庫
2023年4月15日第1刷発行
カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:Minoru
●目次
第一話 拙者、妹ができまして
第二話 悪縁
第三話 年貢の納め時
第四話 分かれ道の手前
本文241ページ
文庫書き下ろし
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『拙者、妹がおりまして(1)』(馳月基矢・双葉文庫)
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