『北の御番所 反骨日録【七】 辻斬りの顛末』|芝村凉也|双葉文庫
芝村凉也(しばむらりょうや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『北の御番所 反骨日録【七】 辻斬りの顛末』(双葉文庫)紹介します。
北町奉行所の用部屋手附同心の裄沢広二郎(ゆきざわこうじろう)を主人公に、奉行所内外の出来事や人間関係をリアルに描いた「奉行所小説」の第7弾です。
裄沢の卓越した推理と洞察力で、事件の真相に迫るとともに、それゆえに奉行所内で悪目立ちする存在。これまでの捕物小説にはいなかった主人公に、知的好奇心が満たされる、大注目のシリーズです。
深川で、岡場所帰りの客が一刀の下に斬られる事件が立て続けに起こる。やり口からして、手練れの者による犯行であるのは明らかであった。奉行所が警戒を強める中、今度は吉原帰りの客が斬られる事件が発生する。盟友の来合轟次郎から一連のあらましを聞いた用部屋手附同心の裄沢広二郎は、下手人として浮かび上がってきた「大物」に単身、接触を試みる。書き下ろし痛快時代小説シリーズ、待望の第七弾!
(『北の御番所 反骨日録【七】 辻斬りの顛末』カバー裏の紹介文より)
深川でほぼ半月おきに、3件の辻斬りによる殺しが発生しました。
殺されたのはいずれも町人ですが、住んでいるところも仕事もバラバラで、互いの関わり合いは見えてこず、真夜中のことで目撃者はなく、聞き込みで手掛かりすらつかめず、北町奉行所の定町廻り同心たちの探索も暗礁に乗り上げていました。
3人はみな深川の岡場所帰りの客で、一色町、霊巌寺の塀の外、柾木稲荷とそれぞれ結構離れた場所で襲われていました。
深川での市中巡回に力を入れている同心たち。
幼馴染みで盟友で定町廻り同心の来合から3件の辻斬りのあらましを聞いた裄沢は、同心詰所にやってきて、「あるいはそういうことがあるかもしれない」と事件についての自分なりに考えたことを話しました。
「辻斬りからすれば、何も深川にこだわる必要はないではありませんか――まあ、我らが知らぬ事情を抱えているならば別ですが」
「おいらたちが深川で血眼んなって駈けずり回っているの横目に、全く別の場所で獲物を物色してもおかしかねえと……」
(『北の御番所 反骨日録【七】 辻斬りの顛末』 P.196より)
裄沢は、4件目は深川と並ぶ遊里である吉原を狙うかもしれないと、理路整然と推論を述べて、同心たちに注意を促しました。
果たして、裄沢の推察通りに辻斬りは現れるのでしょうか?
また、本書の読みどころは、辻斬り犯と思われる男と対峙する場面にあります。
幕閣に影響力をもつ大物につながるその男に、正面からぶつかって、対話を通じて、論理的な思考から導かれた言葉で相手に脅威を与えていくところが、スリリングであり、緊張感がビシビシと伝わってきます。
往年のテレビドラマ「刑事コロンボ」を想起させる、犯人とのやり取りは名場面の一つです。
この第三話「辻斬り顛末」は、二話分の分量があって、裄沢が絡む捕物劇が堪能できます。
第一話「裸の死人」は、江戸の外れの下渋谷村と中渋谷村の境近くの道の真ん中で、寒風の中、褌一丁の裸の状態で倒れ臥している若い男の死の謎に迫るミステリー。
来合は、若い男の許婚だったという女から、事件の真相を突き止めてほしいと懇願されました。
第二話「痴情の死」では、四谷南寺町の通りで、着古して汚れた衣を纏った僧形の男が、三十路過ぎの婀娜な女を襲い、懐に入れていた小刀で女の喉を突き刺して殺すという刃傷沙汰を描いています。物乞いのような男と、周りの男たちが振り向くような色香たっぷりの女、珍しい組み合わせの二人ですが、繋がりや目撃談もさっぱりありません。しかも、殺害後に捕らえられた男は、身元どころか名前も明かしていません。
裄沢のシャーロック・ホームズばりの推理と論理のアクロバットが面白くて、癖になる面白さです。
2021年と2022年の「時代小説SHOW」ベスト10の文庫書き下ろし部門で、本シリーズを上位に推していました。
このシリーズの面白さを多くの人に伝えたいと思っていました。私の紹介が拙くて、なかなか伝えきれないのが残念です。本書を一読すれば、「捕物小説ではない、奉行所小説」の面白さを体感いただけるはずです。
北の御番所 反骨日録【七】 辻斬りの顛末
芝村凉也
双葉社・双葉文庫
2023年4月15日第1刷発行
カバーデザイン・イラスト:遠藤拓人
●目次
第一話 裸の死人
第二話 痴情の死
第三話 辻斬りの顛末
本文312ページ
文庫書き下ろし。
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『北の御番所 反骨日録【一】 春の雪』(芝村凉也・双葉文庫)(第1作)
『北の御番所 反骨日録【二】 雷鳴』(芝村凉也・双葉文庫)(第2作)
『北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨』(芝村凉也・双葉文庫)(第3作)
『北の御番所 反骨日録【四】 狐祝言』(芝村凉也・双葉文庫)(第4作)
『北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし』(芝村凉也・双葉文庫)(第5作)
『北の御番所 反骨日録【六】 冬の縁談』(芝村凉也・双葉文庫)(第6作)
『北の御番所 反骨日録【七】 辻斬りの顛末』(芝村凉也・双葉文庫)(第7作)