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お江戸でねこさらいが発生! 福猫屋の猫たちにも危険が迫る

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『福猫屋 お佐和のねこかし』|三國青葉|講談社文庫

福猫屋 お佐和のねこかし三國青葉(みくにあおば)さんの文庫書き下ろし時代小説、『福猫屋 お佐和のねこかし』(講談社文庫)をご紹介します。

錺職人の夫を亡くし、子どももいないお佐和。夫の葬儀を済ませると、張り詰めていた糸が切れるように寝込んでしまいました。気持ちも落ち込んでいたところに、迷い込んだのが野良猫。

福と名づけたその猫の面倒を見るうちに心が癒やされて、お佐和は立ち直りを見せました。ふとしたきっかけで、江戸のペットショップを始めることになったお佐和の奮闘と可愛い猫たちを描いた『お佐和のねこだすけ』に続く、シリーズ第2弾です。

ネズミ捕りや猫小物、さらには猫茶屋などのいろんな商売を始めて、福猫屋の経営も軌道に乗りかけてきた。そんな矢先、突然猫が消える「猫さらい」の噂が。すでに地元の両国界隈で発生しているらしい。果たして福猫屋では白猫のユキが行方不明になった。犯人は客の中にいるのだろうか。書下ろし時代小説!

(『福猫屋 お佐和のねこかし』カバー裏の説明文より)

福猫屋は、縁側に面した一番広い十二畳ずつ二間続きの座敷の間の襖を取り払い、店として使っていました。客は庭から入ってきて、縁側から座敷に上がります。

猫たちは座敷のあちらこちらに置かれた籠の中や畳の上で寝たり、取っ組み合いや追いかけっこをして遊んだりと、勝手気ままに過ごしています。

客たちは座敷や縁側や庭で、猫を眺めたり、抱いたり、一緒に遊んだりして時を過ごします。それに飽きると、牡丹餅や汁粉、豆腐の田楽を食べ、甘酒を飲みます。

猫好きなら一日中いても退屈せず、客同士で意気投合し話に花が咲くこともあり、福猫屋が縁で友だち付き合いしている者たちもいます。

元三味線の師匠のお駒と、商家の隠居であるお滝、忠兵衛と徳右衛門の四人組は、毎日来てくれる常連です。

福猫屋では最近、猫貸し(猫のレンタル)始めました。
子猫一匹につき、一日百文の貸し料の他に、保証金五百文がかかります。

お佐和には気になるお客がいました。
よく猫を借りに来る梨野権兵衛という胡散臭い名の浪人者です。
年は三十くらいで、背がひょろひょろと高く、色が白くてわりに整った顔立ちをしていました。

着物は垢じみているが、金はきちんと払い、猫を借りる前には牡丹餅やお汁粉を食すのが常でした。

「今日はこの猫を借りることにいたそう」
「権兵衛様、そんなに猫がお好きなら、いっそのことお飼いなればよろしいのに」
「そうしたいのはやまやまだが、母上が猫嫌いでな」
「『飼いたいのです』と押し通してしまえばようござましょう」
「そんなおそろしいこと、俺にはとても無理じゃ」

(『福猫屋 お佐和のねこかし』P.88より)

仲良し四人組にも怪しいヤツと、江戸の町で流行っている猫さらいではと疑いまでかけられてしまいます。

ところが、この猫好きのお侍「ねこざむらい」には、秘密がありました……。

「そうそう。子猫の目は無垢だからさあ」
「そして、みょーんって伸びたのがとどめだったようなあ」

(『福猫屋 お佐和のねこかし』P.172より)

今回も、可愛らしい猫ちゃんが続々と登場して癒してくれます。
猫との接し方も人それぞれ。老若男女はもちろん、商人も職人も武士まで、猫好きたちも大集合です。

「久貝(くがい)家って、あの市谷柳町の久貝遠江守様ですか? 銀杏坂の」
「う、あ、ま、まあ、そうだ」
 久貝家は寛平年間(八八九~八九八)までさかのぼることができる江戸開府以来のお旗本で、屋敷にある銀杏稲荷とご神木の銀杏の大木にちない、近くの坂に『銀杏坂』の名がついたのである。

(『福猫屋 お佐和のねこかし』P.105より)

五千五百石の大身旗本久貝家の大殿正貞も登場します。
久貝氏は河内国交野に五千石の領地を持っていましたが、時代小説に出てくるのは珍しく、興味を覚えました。

福猫屋 お佐和のねこかし

三國青葉
講談社 講談社文庫
2023年2月15日第1刷発行

カバー装画:東久世
カバーデザイン:鈴木久美

●目次
第一話 ねこかし
第二話 ねこざむらい
第三話 ねこさらい

本文217ページ

書き下ろし。

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『福猫屋 お佐和のねこだすけ』(三國青葉・講談社文庫)(第1弾)
『福猫屋 お佐和のねこかし』(三國青葉・講談社文庫)(第2弾)

三國青葉|時代小説ガイド
三國青葉|みくにあおば|時代小説・作家 神戸市出身。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。 2012年、「朝の容花(かおばな)」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題しデビュー。 ■時代小説SH...