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女子教育に光をともし続けた、河井道の波瀾の生涯を描く

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『らんたん』|柚木麻子|小学館

らんたん柚木麻子(ゆずきあさこ)さんの大河小説、『らんたん』(小学館)を紹介します。

本書は、東京・恵泉女学園の創立者で、明治、大正、昭和と激動の時代を駆け抜け、女子教育に情熱の全てを注いだ教育者河井道(かわいみち)の生涯を、三部構成で描いた長編小説です。

数年間、海外留学に関する仕事をしていたころがあり、道が津田梅子と同じブリンマー女子大学に留学していたことを知って、関心をもっていた人物の一人でした。

著者の柚木麻子さんも恵泉女学園の出身で、恵泉女学園の卒業生です。

大正最後の年。かの天璋院篤姫が名付け親だという一色乕児(いっしきとらじ)は、渡辺ゆりにプロポーズした。
彼女からの受諾の条件は、シスターフッドの契りを結ぶ河井道と3人で暮らす、という前代未聞のものだった――。

(『らんたん』Kindle版のAmazonの紹介文より)

大正最後の年、イギリス留学経験もある、五十一歳の一色乕児は、三十八歳の女教師渡辺ゆりと人生初の見合いをし、一目惚れをして、プロポーズをしました。

ゆりはプロポーズを受けましたが、一つ条件を出しました。

「私、河井道先生とシスターフッドの関係にあります。女子英学塾時代の恩師でもあり、親友でもある女性です。結婚しても、これまでどおり、彼女との仲を維持していけるのであれば、お申し込みを承諾します。彼女と一緒に理想の女学校を作り、生涯をともにすることが私の夢なんです。もちろんその学校で教師をするつもりで、仕事を辞めるつもりはございません」
 
(『らんたん』8/569ページより)

シスターフッドとは、イエス・キリストのもとに集う姉妹、血縁関係を持たない女性同士の絆を指し、無条件の助け合いや分かち合いを指します。

そのとき、道は教育の視察のため、アメリカとヨーロッパに行っていて帰ってくるのは来年の春頃になると。そして、その年の暮れに乕児とゆりは結婚しました。

翌年の春、道が帰国し、奇妙な三人の生活が始まりました。

「あのう、一つ伺ってもよろしいですか? あなたたちはもともと女子英学塾の教師と生徒でしたね。どうして立場を超えて、その、今のような関係になったんですか?」

(『らんたん』19/569ページより)

伊勢神宮の神官をしていた父は明治維新により失職し無職に。働き者の母が稼ぎ手となって、家計を支えましたが、明治十九年、道は両親と姉とともに函館に移住しました。

幼いころから勉強嫌いだった道。
開校したばかりのサラ・クララ・スミスのスミス女学校(後の北星学園)に入学し、キリスト教に基づいた教育と出合います。
欧米スタイルで行事が多く、小さなパーティーが毎週催される学校に馴染んでいきます。

女学校でシスターフッド(本当の姉妹ではないが魂の結びついた女子同士の関係)を知り、さらに、隣の家に住む新渡戸稲造からアメリカのブリンマー女子大学への留学を勧められました。

19歳のとき、東京に出て、ブリンマーの留学経験者で、女子英学塾(後の津田塾大学)を開講した津田梅子の家に下宿して、英語の勉強を続けます。

第一部では、道のブリンマーでの愉快で冒険に満ちた留学エピソードのほか、道の強い勧めでアーラム大学に留学することになる、シスターフッド、一色(渡辺)ゆりの体験談も載っていて当時の留学準備やキャンパスライフを知ることもできます。

親密で思いやりにあふれる、道とゆりのシスターフッドとは別に、日本初の女子留学生だった津田梅子と山川捨松の内に秘めた思いも描出されていて、その対照ぶりが物語を面白くしていきます。

第二部、第三部では、時勢が戦争へと向かっていくなかで、女性の地位向上と平和を願い、理想の学校づくりにまい進する二人が描かれていきます。

昭和4年、道は念願の恵泉女学園を創立しました。
やがて、戦争へと向かう日本。学園にも危機が訪れます……。

「誰かが必ず、私の意志を引き継いで、私の失敗や悲しみも糧にしてくれると信じている。そして、私がともした光より、もっと大きな光にして、それをまた新しい世代に継承するの。学校が運営される限りね。だから、灯りを決して消してはだめ。道さん、大変なこともあるだろうけど、学校を閉鎖してはだめよ。これから日本がどんな社会になっても、知恵を振り絞って存続させてちょうだい。約束よ」

(『らんたん』316/569ページより)

死期の迫った津田梅子から道は夢を託されました。

有島武郎、広岡浅子、徳冨蘆花、村岡花子、柳原白蓮、野口英世、太宰治ら、同時代を生きた著名人たちも登場し、明治後期から大正、昭和の女子教育の歴史が俯瞰できます。

また、平塚らいてう、山川菊栄、市川房枝ら、女性運動家も登場します。

道やゆり、梅子などいろいろな女性たちの思いが詰まった、感動の女子大河小説。
読み終えた時、深い感動に包まれました。
「ランタン」のように光をともし続けた河井道の生き方。
もっと多感な時期に読んでいたら、人生が変わったかもしれない、小説の持つ凄い力をあらためて認識した作品です。

らんたん

柚木麻子
小学館
発売日:2021/11/1
本書はKindle版で読みました。

イラストレーション:金子幸代
カバーデザイン:築地亜希乃(bookwall)

●目次
第一部
第二部
第三部
著者プロフィール

569ページ

■Amazon.co.jp
『らんたん』(柚木麻子・小学館)

柚木麻子|作品ガイド
柚木麻子|ゆずきあさこ|作家1981年、東京都生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒業。2008年、「フォゲットミー、ノットブルー」で第88回オール讀物新人賞を受賞。2015年、『ナイルバーチの女子会』で、第28回山本周五郎賞を受賞。時代小...