『脳科学捜査官 真田夏希 シリアス・グレー』|鳴神響一|角川文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『脳科学捜査官 真田夏希 シリアス・グレー』(角川文庫)を紹介します。
第13巻の『ナスティ・パープル』で、真田夏希が警察庁サイバー特別捜査隊に異動となり、以降、シリーズではクラッキングなどのサイバーテロ犯罪を扱いようになり、ネットやIT関連用語が多く出てくるようにな事件が増えてきました。
本書は、サブキャラクターの一人、神奈川県警根岸分室の一匹狼、上杉輝久を主人公に据えた物語となり、サイバー特捜隊が関わらない、従来型の犯罪に立ち向かうストーリーになっています。
神奈川県警根岸分室の警視上杉輝久は、極秘裏に刑事部長の黒田に呼び出された。ミスターZを名乗る武器密売人から『神奈川県警にとって拭いがたい恥辱となるような大きな事件が起きる』というタレコミがあったという。彼に接触してほしいと密命を受けた上杉は、約束の場所へ単独で向かう。だが、Zと接触した瞬間、銃弾が2人を襲った。Zという手がかりを失った上杉は、夏希たちに協力を依頼し、決死の捜査を開始する!
(本書カバー裏紹介より)
その日、上杉輝久は、神奈川県警の刑事部長の黒田友孝とともに、よこはまコスモワールドの大観覧車のゴンドラの中にいました。
二人は人に知られたくない話、万が一にも外へ漏らしたくない話をするためでした。
「タレコミの話だ。昨日の夜、刑事部に対してタレコミがあった。『一週間以内に神奈川県警にとって拭いがたい恥辱となるような大きな事件が起きる。このネタを買ってもらいたい』という内容だ」
黒田部長はゆっくりと告げた。
「県警にとっての恥辱」
思わず上杉は繰り返し低くうなった。
事実だとすれば大変な話である。(『脳科学捜査官 真田夏希 シリアス・グレー』P.8より)
タレこんできたのは、ミスターZと名乗る闇世界では名の通った武器密売人で、彼は正体不明で日本中の警察が追いかけている犯罪者でした。
黒田部長の命令で上杉は、Zが予告した事件、X計画を未然に防ぐため、明日、本牧山頂公園に行ってZと接触して、詳しい話を聞き出すことに。
待ち合わせ場所で接触した瞬間、ミスターZは何者かに狙撃されて絶命しました。
敵の次のターゲットは上杉で、二発の銃弾が放たれました。上杉は三メートルほど離れた場所に停まっていた車まで頭を低くして走り、車の蔭に身を隠して、その後も続く銃撃を防ぎ続けました。
やがて巡回中のパトカーがやってきて窮地を逃れました。
ところが、続いて覆面のパトカーが現場に到着し、本牧署刑事課強行犯係の寺西刑事が現れると状況は一変します。
「まぁ、現時点では参考人としてお話を聞かなきゃならないんでね」
とぼけたような声で寺西は答えた。
「参考人だと?」
「そうですよ、この駐車場で日下部という男が射殺された。あんたは日下部と待ち合わせをしていた。しかも拳銃を携帯している。これだけの条件がそろっているのに、そのまま帰したらわたしゃ刑事じゃありませんよ。一緒に来て頂きましょう」(『脳科学捜査官 真田夏希 シリアス・グレー』P.44より)
黒田からの秘密指令を明かすことができない上杉は、寺西によって被疑者扱いをされて、任意同行として本牧署に連れて行かれました。
キャリア官僚で一匹狼の上杉と、叩き上げの頑固刑事寺西の対峙にハラハラドキドキ。
上杉はこのまま殺人犯にされてしまうのでしょうか?
X計画の調査を始める前に、上杉の前に、警察組織が生んだ難敵が立ちはだかり危難に見舞われてしまいます。
X計画を阻止するために、上杉、夏希を含む面々が部署を越え、スペシャルチームが結成されます。
それぞれ専門技術や特技を持つ者たちが集まり、国際的な犯罪計画に立ち向かう、ワクワクドキドキする物語が楽しめます。
本書は、キャリア官僚ながら熱き一匹狼の上杉の魅力が横溢していますが、かつての仲間たちと協力し合う夏希も生き生きと描かれていて、ファンには楽しみな警察小説です。
脳科学捜査官 真田夏希 シリアス・グレー
鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2023年2月25日初版発行
カバー写真・デザイン:舘山一大
●目次
第一章 狙撃
第二章 痕跡
第三章 たくらみ
第四章 危難
本文282ページ
文庫書き下ろし
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