『江戸留守居役 浦会 白河対浦会』|伍代圭佑|ハヤカワ時代ミステリ文庫
伍代圭佑(ごだいけいすけ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『江戸留守居役 浦会 白河対浦会』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を紹介します。
江戸留守居役で若君御守役をつとめる高瀬桜之助は、ある経緯から幕府を裏から支え守る闇組織「浦会(うらかい)」と深いかかわりをもつようになります。
突如、裏組織の役目を担うことになった主人公の葛藤と活躍を描く痛快時代小説シリーズの第3弾です。
天下の安寧をはかる裏の組織・浦会。高瀬桜之助はその一員でありながら、浦会の非情さに疑問を抱いていた。その浦会を敵視するときの権力者・松平定信が、息のかかった者を送り込んでくる。折しも定信配下の戦闘集団〈御影〉にも、不穏な動きがおこる。真田幸村の位牌の謎をめぐり、桜之助は幾重にも入り組んだ敵たちとの死闘を余儀なくされ……非情の嵐に真の心で立ち向かう、江戸謀略小説。
(本書カバー帯の紹介文より)
寛政二年(1790)長月。
駿河国田中四万石の江戸留守居役高瀬桜之助は、品川宿の料理屋で催された留守居役同士の寄合の宴席で、小浜という美しい芸者と出会いました。
大きな扇を自在に遣い、凛とした舞姿で、憂いを帯び、美しさがこのうえない小浜に、櫻之助は目を引き付けられます。
桜之助の眼には小浜が広げた扇子の柄が焼きついている。
一面、鮮やかな朱色の地に金泥で描かれた丸が六つ並んでいた。
(真田の六連銭……)
白銀の月光が障子を透かして部屋を浮き上がらせている。
麝香の香は桜之助にまとわりついて離れなかった。
(『江戸留守居役 浦会 白河対浦会』 P.26より)
以来桜之助は、小浜のことが気になり、寄合でもない日に品川に足を運び、小浜を座敷に読んだりもしました。
小浜が手にした扇子の模様、六連銭は、真田左衛門佐信繁、通称幸村の紋です。
真田幸村は大坂夏の陣で最後まで神君家康を悩ませ続けた名将で、徳川によって滅亡された豊臣方の武将。
江戸開府から二百年近く経たこのときも、幸村の無念を晴らそうとする者たちがあちこちに散っていました。
桜之助がかつて田中の蓮花寺池で刃を交わした能役者、結崎太夫も衣鉢を継ぐ真田者で、身に麝香の香を炊きしめていました。
結崎太夫と同じ麝香をただよわせ、六連銭の紋を帯びた小浜。
『えもいわれぬ世の不安や不満をいちはやくかぎ取り、天下の安寧を図る』ことを旨とし、徳川の世を裏から支える『浦会』の一員としても、真田者を見過ごしにできない桜之助は、次第に小浜に惹かれていきます。
老中筆頭として、「質素倹約」一色で改革を進めていく松平越中守定信(白河殿)は、敵視していた浦会に側近の水野左内を送り込み、見聞きしたことを報告させることに。
時代小説に松平定信や田沼意次が登場すると、物語は俄然面白くなります。
本シリーズも例外ではありません。
本書では、小浜のほかにも、興味深いキャラクターが登場します。
横死した村松獅子右衛門の代わりに、若君御守役となった鷲津多聞。
御家人の次男として生まれ、昌平黌首席という才を見込まれ、本多伯耆守家中の鷲津家に養子に入りました。
養家に少しでも栄達を、と重職に媚びを売ったり、桜之助にもあけすけに接近してきます。
浦会の采配者で、桑名十万石の松平下総守家中江戸留守居役の服部内記の双子の兄、服部丹後も強烈な印象が残りました。
味方が敵に変わったり、敵と思っていた者に助けられたり、物語は混沌とし謎が深まっていきます。桜之助の前に、つぎつぎに敵が現れます。
桜之助は、浦会の趣旨には共感しながらも、浦会で内記の取る手法には与せず、独立不羈な形で戦っていくところが痛快です。
3作目にして、主人公の不器用な恋と対照するように桜之助の家族の姿が描かれ、痛快時代小説だけでない読みどころがあって、ますます面白さが増してきました。
江戸留守居役 浦会 白河対浦会
伍代圭佑
早川書房 ハヤカワ時代ミステリ文庫
2022年12月15日発行
カバーデザイン:k2
カバーイラスト:丹地陽子
●目次
第一章 薄艶
第二章 名優
第三章 憑依
第四章 密会
第五章 供養
本文390ページ
文庫書き下ろし
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『江戸留守居役 浦会』(伍代圭佑・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第1作)
『江戸留守居役 浦会 火盗対浦会』(伍代圭佑・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第2作)
『江戸留守居役 浦会 白河対浦会』(伍代圭佑・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第3作)