『江戸の暮らしと落語ことはじめ』|三遊亭兼好著・安藤優一郎歴史監修|アノニマ・スタジオ
三遊亭兼好(さんゆうていけんこう)さんの江戸と落語の入門書、『江戸の暮らしと落語ことはじめ』(アノニマ・スタジオ)をご恵贈いただきました。
本書は、円楽一門の落語家三遊亭兼好さん。
存じ上げていなかったので、ウィキペディアを見ると、ユニークな経緯で落語界に入られたことがわかり、親近感を覚えました。
また、江戸の暮らしや風物の基本を、歴史家の安藤優一郎さんが解説されています。
ぼんやり聴いてもたのしい。
江戸を知ったらもっとたのしい。定番の古典落語55作とそれにまつわる言葉や文化、歴史雑学をカンタンに紹介!
読んで、聴いて、あなたも落語の世界の住人に。(『江戸の暮らしと落語ことはじめ』カバー帯の説明文より)
野口卓さんの時代小説『ご隠居さん』で、世間知に長けた鏡磨ぎの梟助が登場します。物語では世間知に長けて物知りのおじいさんですが、かつては、鏡磨ぎをする越中氷見の百姓に引き取られて育てられた、無口な田舎者の若者でした。
梟助は、鏡磨ぎの仕事を通じて、大店の娘に見初めらえて、小間物問屋の養子となることに。
無口な田舎者を、いかにして江戸の商人に仕立てる火。これほどの難問はないだろう。
旦那の庄右衛門と大番頭の善吉は、額を寄せて相談した。
「寄席が一番でしょう、大旦那さま」(『ご隠居さん』「庭蟹は、ちと」より)
落語にはあらゆる階級、そして職業の人物が登場し、武家、商人、職人などが主人公で、それぞれの言葉や話しっぷりが自然と耳に入ってきます。あいさつ、喧嘩の仕方、詫びやお礼の言い方などもわかるようになるからです。
寄席は無学者の手習所とも言われていました。
落語は、世の中を知って、よりよく生きるために必要なことがたくさん詰まっています。
左官の長兵衛は腕はいいが、博打にはまってしまい家は貧乏で借金だらけ。夫婦喧嘩が絶えない。見かねた娘のお久が吉原の大店・佐野槌に自分のみを売って急場をしのぐことに。(以下略)
(『江戸の暮らしと落語ことはじめ』P.82「文七元結」より)
本書では、『船徳』や『ふだんの袴』など、定番と言われる古典落語55作の聴きどころを、6つのテーマ(章)に分けて紹介してゆき、その中に登場する言葉や江戸の知識をわかりやすく解説するという構成になっています。
古典落語は、江戸や時代を背景に、その後の時代を生きる人たちが楽しめるように語られる芸能です。「へっつい」や「棒手振り」が何のことか理解できなくても、噺のおかしさや芸のおもしろさは伝わってきます。
しかし、江戸のことや落語の基本がわかればもっともっと楽しめます。
そして、この本でわかる江戸の知識、落語の筋立ては、時代小説を読む際にも役立つものばかりです。
本書で、落語への関心がグンと高まってきました。
まずは、紹介されている古典落語をYouTubeで見て、寄席に行ってみたくなりました。
三遊亭兼好チャンネル|YouTube
江戸の暮らしと落語ことはじめ
三遊亭兼好
歴史監修:安藤優一郎
アノニマ・スタジオ
2022年12月8日初版第1刷発行
絵:得地直美
装丁:白い立体
●目次
前書き
落語のきほん
江戸のきほん
第一章 江戸のしごと
大工調べ/船徳/青菜/かぼちゃ屋/抜け雀/三方一両損/三軒長屋/道具屋/死神
江戸のしごとあれこれ
お仲入り 落語が語る世界はいつのこと?
第二章 江戸のまち・住まい
粗忽の釘/へっつい幽霊/寝床/二番煎じ/雛鍔/牛ほめ/味噌蔵/寿限無/湯屋番
江戸のまち・住まいあれこれ
第三章 江戸の食
権助魚/長屋の花見/寄合酒/そば清/子別れ/王子の狐/茗荷宿/百川/徂徠豆腐/目黒のさんま/本膳
江戸の食事情あれこれ
お仲入り 落語におけるリアリティ
第四章 江戸のおしゃれ・よそおい
火事息子/文七元結/夢金/ふだんの袴/紺屋高尾/小間物屋政談/伽羅の下駄/浮世床
江戸のおしゃれ・よそおいあれこれ
第五章 江戸の趣味・娯楽
富久/阿武松/野ざらし/看板のピン/茶の湯/七段目/あくび指南/雪てん
江戸の趣味・娯楽あれこれ
お仲入り 落語というファンタジー
第六章 江戸の行事
かつぎや/初天神/たがや/藪入り/花見の仇討ち/芝浜/高砂や/妾馬/片棒/黄金餅
江戸の行事あれこれ
お仲入り 娯楽としての奥深さ
後書き
著者・監修者紹介
本文136ページ
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『江戸の暮らしと落語ことはじめ』(三遊亭兼好・アノニマ・スタジオ)
『ご隠居さん』Kindle版(野口卓・文春文庫)