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猫への恩返しで始めた商いが心を温める、江戸動物小説

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『福猫屋 お佐和のねこだすけ』|三國青葉|講談社文庫

福猫屋 お佐和のねこだすけ三國青葉(みくにあおば)さんの文庫書き下ろし時代小説、『福猫屋 お佐和のねこだすけ』(講談社文庫)を紹介します。

幽霊が見える兄と幽霊の声が聞こえる妹が活躍する、ハートウォーミングな霊感時代小説『損料屋見鬼控え』に続く、著者の新シリーズが始まりました。

夫を亡くして塞ぎ込むお佐和の家に、一匹の野良猫が迷い込む。福と名づけたその猫の面倒を見るうちに心癒され、すぐに子猫も生まれてお佐和は立ち直っていく。そんなある日、福に「ネズミ捕り」の依頼が舞い込み、お佐和は猫への恩返しとなる新商売を思いつく。江戸のペット事情を描く、書下ろし時代小説!

(『福猫屋 お佐和のねこだすけ』カバー裏の説明文より)

両国橘町で、錺職人の夫松五郎と八人の弟子たちと幸せに暮らしていたお佐和は、夫を突然の心の臓の発作で亡くしました。
子ども代わりに面倒を見てきた弟子たちはみな、松五郎が修業をしていた親方の息子、政吉に引き取られました。

お佐和は、松五郎の葬式と四十九日の法要までは完ぺきにやってのけましたが、それも終わり、緊張の糸が切れて、真っ黒な底なし沼に落ちました。

何もする気もおこらず、日がな一日夜具をかぶって寝ています。雨戸も締めっぱなしなので、昼なのか夜なのかもわかりません。もう幾日も何も口にしていません。

 ずっとこのままでいたら飢え死にしてしまうだろう。それでもかまわない。あたしなんか生きていたってしようがない。
 もう、疲れた……。早く楽になりたい。
 
(『福猫屋 お佐和のねこだすけ』P.19より)

そのとき、犬が激しく吠え出す声がして、その後に猫の鳴き声が聞こえてきました。
お佐和は、犬と猫が喧嘩してにらみ合っているさまを思い浮かべ、体の大きな犬が猫を嚙み殺すのではないかと想像し、なんとか猫を助けてやらなくてはと思いました。

廊下の雨戸を開けて縁側に出ると、雨の中で庭でにらみ合っている大きな白い犬と小柄なでお腹の大きなキジトラ猫を目にしました。庭におりて庭下駄を投げて犬に当てて何とか追い払いました。

お佐和は、身重の野良猫に食べ物を与え、産室を兼ねた寝床を作り、「福」と名付けて家で飼い始めます。

次の日の朝、お佐和は起きてすぐ福の寝床を見に行くと、子どもが生まれていました。
子猫は全部で五匹。キジトラが二匹に、三毛とハチワレと真っ黒が一匹ずつです。

お佐和と猫たちの暮らしの始まりです。

世の中には、猫をもらいたい人、猫が子をたくさん産んだものの飼えないので引き取ってほしい人、捨てる人などいろいろな人がいます。
一方、猫は人に飼われることで、おいしい餌とあたたかい寝床にありつけます。

お佐和は、福に命を助けてもらったのだから、猫に恩返しをしたいと思い、自分が人と猫の縁を結ぶ仕事ができないかと考えました。
野良猫を助け、飼ってくれる人を探す、人も猫も幸せになってもらいたいと願い、店の名を『福猫屋』と名付けました。

登場する猫たちの生態がリアルで、可愛くて、物語にどんどん引き込まれていきます。
さまざまな猫たちと飼い主たちが登場し、新しい話も読みたくなり、いつまでも作品の世界に浸っていたい、楽しい動物時代小説です。
続編の発売が待ち遠しくなりました。

福猫屋 お佐和のねこだすけ

三國青葉
講談社 講談社文庫
2022年11月15日第1刷発行

カバー装画:東久世
カバーデザイン:鈴木久美

●目次
第一話 ねこだすけ
第二話 ねこまみれ
第三話 ねこづくし

本文218ページ

書き下ろし。

■Amazon.co.jp
『損料屋見鬼控え 1』(三國青葉・講談社文庫)

三國青葉|時代小説ガイド
三國青葉|みくにあおば|時代小説・作家 神戸市出身。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。 2012年、「朝の容花(かおばな)」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題しデビュー。 ■時代小説SH...