『北の御番所 反骨日録【六】 冬の縁談』|芝村凉也|双葉文庫
芝村凉也(しばむらりょうや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『北の御番所 反骨日録【六】 冬の縁談』(双葉文庫)紹介します。
北町奉行所の用部屋手附同心の裄沢広二郎(ゆきざわこうじろう)を主人公に、奉行所内外の出来事や人間関係をリアルに描く「奉行所小説」です。
他に類型を見ない面白さで、読者の知的好奇心を満たしてくれます。
2021年の時代小説ベスト10「文庫書き下ろし部門」第3位に推す、人気シリーズの最新刊です。
かどわかしの一件の後、屋敷に籠もって姿を見せなくなった関谷家の娘・茜。そんな隣家の娘を案じる裄沢広二郎の耳に、茜の縁談の噂が飛び込んできた。その相手は、過去に二度も離縁している南町の中年同心だったお。そんな中、八丁堀の屋敷の門前に立ち裄沢の帰りを待つ若侍の姿が――。道理に合わなければ上役にも臆せず物申す、やさぐれ同心の奮闘と奉行所内の人間模様を描く、書き下ろし痛快時代小説、人気シリーズ第六弾。
(『北の御番所 反骨日録【六】 冬の縁談』カバー裏の紹介文より)
主人公の裄沢が務める用部屋手附同心とは、お奉行の秘書官的な立場の内与力(うちよりき)の下僚として、補助をつとめる内勤のお役目。
内勤の主人公ということで、探索や捕物より、奉行所内で起こる事件や奉行所に勤める人たちを描くことに力点が置かれています。
「裄沢とは、そなたのことか」
髷も「どうにか結わえた格好をつけている」というほど髪が薄くなった老人が、裄沢広二郎を睨み上げていた。町方装束に身を包んではいるが、本来なればとっくに隠居していておかしくない年齢に見える。
(『北の御番所 反骨日録【六】 冬の縁談』 P.7より)
北町奉行所の玄関前で、皆が昼休憩を取ろうかというころに、裄沢は面識のない年寄同心の彦内に声を掛けられ、「あまりいい気になっておると、儂らも見逃せぬようになるということをよう憶えておけ」と喧嘩腰で言いたいことだけ言われて歩き去られました。
年寄同心は、長年勤めてきて経験と実績が豊富なご意見番的な存在だが、実際はそこまで期待されておらず、うるさ型が多くて、持て余されていました。
そのなかでも「年寄同心らしい年寄同心」の彦内に、裄沢は目を付けられて、ある日、呼び出されました……。(第一話 年寄同心)
表題作の「冬の縁談」は、前作『かどわかし』(第5巻)で、遭遇した事件の顛末が描かれた裄沢の隣家の娘・関谷茜をめぐる後日談となります。
事件の後、家に連れ戻された茜について、間違った噂が広まっていました。
茜は、家から出ることを許されず、見舞いに来てくれた友達とも会うことも、文のやり取りをすることもできずに、座敷牢に入れられたような待遇でした。
茜の父左京之進は、同じ北町奉行所の赦帳撰要方同心ながら、やさぐれと呼ばれている裄沢を危険視し、裄沢が手を差し伸べようとしても素直に受け入れられない心境でした。
そして、茜の縁談を急に進めて、相手は二十以上歳の離れた南町の門前廻り同心だと。
しかも、放埓と乱暴から二度まで妻を離縁した、評判の悪い男でした……。
亡き娘の面影が重なる茜の嫁入り話に、はぐれ者が見せる親心が胸に沁みます。
「まあ、真相がどうあれ、その父親が得心すりゃあ、そいでいいんだ」
「それを、それがしに調べよと?」
「おいらが動けりゃあいいんだけどな、廻り方がきっちり調べ上げた一件に吟味方の本役が口を出すなぁ、さすがにどうかって話でよ。その点お前さんなら、廻り方の面々からの受けもいいしな。何とか頼めねえかと思ったんだ」
(『北の御番所 反骨日録【六】 冬の縁談』 P.153より)
第三話の「小日向心中」で、裄沢は吟味方与力本役の甲斐原から、ふた月半前に小日向で起きた心中騒ぎを調べ直すように依頼されました。
茶の湯の弟子が宗匠の妾を刺して、自分も喉を突いて死んだという一件で、既に相対死として決着がついていました。
他の同心たちと違うものの見方ができ、洞察力もある裄沢は、このようなことを頼まれることも珍しくありません。
第四話の「冬芽(とうが)」は、四人の見習い同心たちの捕物話を描いた短編。
見習いのなかには、不正が明らかになり隠居した同心於跡を継いだ横手新八もいました。
さて、彼らに裄沢はどのように絡んでいくのでしょうか。
一話一話、趣向を凝らし、さまざまな角度から奉行所を描いていき、奉行所の知られざる世界を垣間見ることができます。
現代ミステリーでは、警察小説が花盛りですが、時代小説でも、奉行所小説に注目しないのはもったいないと思います。
北の御番所 反骨日録【六】 冬の縁談
芝村凉也
双葉社・双葉文庫
2022年12月18日第1刷発行
カバーデザイン・イラスト:遠藤拓人
●目次
第一話 年寄同心
第二話 冬の縁談
第三話 小日向心中
第四話 冬芽
本文323ページ
文庫書き下ろし。
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『北の御番所 反骨日録【一】 春の雪』(芝村凉也・双葉文庫)(第1作)
『北の御番所 反骨日録【二】 雷鳴』(芝村凉也・双葉文庫)(第2作)
『北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨』(芝村凉也・双葉文庫)(第3作)
『北の御番所 反骨日録【四】 狐祝言』(芝村凉也・双葉文庫)(第4作)
『北の御番所 反骨日録【五】 かどわかし』(芝村凉也・双葉文庫)(第5作)
『北の御番所 反骨日録【六】 冬の縁談』(芝村凉也・双葉文庫)(第6作)