『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜4 テディベアの花園』|鳴神響一|幻冬舎文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし警察小説、『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜4 テディベアの花園』(幻冬舎文庫)をご恵贈いただきました。
女子高生と見まごう童顔の美人警察官、細川春菜が、専門捜査支援班に配属され、捜査協力員=「ヲタク」の知識を借りて、難解な殺人事件の謎を解く、警察小説シリーズの第4弾です。
(アクションシーンも含めて、勝手に、女優の浜辺美波さんのイメージで読んでいます)
三浦市の密室状態の別荘で殺人事件が発生。被害者がテディベアの有名なコレクターだったことから、専門捜査支援班の春菜へ捜査一課の浅野から応援要請が舞い込む。テディベアに詳しい登録捜査協力員(ヲタク)の知識を借りて被害者が残した謎のメモを解明したいというのだ。はたして「PB55……TCOA?」とは何を意味しているのか?
(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜4 テディベアの花園』カバー裏の紹介文より)
そろそろ梅雨入りの季節。
春菜が、各分野の専門知識を持っている学者などから、捜査の参考になる専門知識を収集する役目を担っている専門捜査支援班に異動になって二カ月と少し。ようやく部署にも慣れてきたころ。
捜査一課強行七係主任の浅野康長が、春菜の力というか、ヲタクの知識を借りに来ました。
三浦市諸磯の別荘で事業家の神保真也さんが左心室に針が刺さった状態で亡くなっているが発見されました。
しかも、別荘の鍵は内側からすべて施錠されていて、密室でした。
三崎署刑事課では殺人事件と自殺の両面で捜査を開始したところです。
もし殺人事件だとしても、専門捜査支援班の春菜が果たせる役割は少ない。
「わたしでお役に立てることがあるんですか」
春菜は問いを重ねた。
「実はな……真也さんは有名なテディベア・コレクターなんだ」
康長はとまどい気味に言った。(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜4 テディベアの花園』P.21より)
被害者は、自宅に100体にも及ぶテディベアが置いてあり、三カ月くらい前に全国紙の地方版にテディベア・コレクターとしての紹介記事が掲載されたと。
しかも、亡くなったときにポケットに「PB55……TCOA?」という謎のメモを残していました。
康長はメモが事件を解くカギで、書かれていることの意味をテディベアの「ヲタク」協力員に聞いてみたいと言い、春菜と二人で、登録捜査協力員名簿にある、三人の「ヲタク」に話を聞いていく方針を立てました。
専門捜査支援班の部屋に戻り、班長の赤松に今回の被害者がテディベア・コレクターであることを告げると、側でやり取りを聞いていた専門捜査支援班の同僚で、人文・社会学系の学者担当の尼子隆久が素っ頓狂な声を上げました。
尼子もテディベアを蒐集していて、ある程度の基礎的な知識を有していると言います。
三浦市の現場と横須賀市にある被害者の自宅へ行くという二人に尼子は同行を申し出ました。
ヲタクたちが語る、テディベアの魅力の扉を開いていくとともに、事件の謎の核心へ迫っていくストーリー展開が面白く、一気読みしてしまいました。
テディベアについて、クマのぬいぐるみぐらいしか知らなかったのですが、本書で登場するヲタクたちによって、テディベアの歴史やコレクションとしての価値、ベアが人にもたらす心理的な影響力やベア製作まで奥深い世界が広がっていることを知りました。
また、テディベア「ヲタク」は、これまでの「ヲタク」たちに比べて、年齢が高めで、金銭的な余裕がある、生活の安定し、社会に貢献しようという志向のある人のように思われ、今回のヲタクの描き方に興味を覚えました。
さまざまな「ヲタク」たちの性向と心情に注目した、この警察小説シリーズには、時代小説にはない、今を知ることができるという別の面白さがあります。
それは、癖になる面白さです。
神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜4 テディベアの花園
鳴神響一
幻冬舎 幻冬舎文庫
2022年12月10日初版発行
カバーデザイン:舘山一大
カバーイラスト:田中寛崇
●目次
第一章 海辺の憂うつ
第二章 ベア・ヲタクたち
第三章 テディベアの花園
本文310ページ
文庫書き下ろし
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『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜』(鳴神響一・幻冬舎文庫)
『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜2 湯煙の蹉跌』(鳴神響一・幻冬舎文庫)
『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜3 夕映えの殺意』(鳴神響一・幻冬舎文庫)
『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜4 テディベアの花園』(鳴神響一・幻冬舎文庫)