2022年11月22日(火)、第5回書評家・細谷正充賞ならびに第3回書架の細充賞(一般社団法人文人墨客主催)の授賞式が、神保町の出版クラブホールで開催されました。
当日の様子をレポートします。
主催者を代表して、切り絵イラスト作家「かみきり仁左衛門」こと、文人墨客の理事の岩田健太郎さんの開催スピーチで、授賞式は始まりました。
続いて、文芸評論家で書評家の細谷正充さんが選んだ、今年の5冊の著者の登場です。
『ヴェネツィアの陰の末裔』上田朔也(創元推理文庫)
『銀狐は死なず』鷹樹烏介(二見書房)
『神々の歩法』宮澤伊織(東京創元社)
『マザー・マーダー』矢樹純(光文社)
『高望の大刀』夜弦雅也(日本経済新聞出版)受賞されたみなさん、おめでとうございます!
ここで、細谷さんが読みどころや評価した点など、受賞作品の魅力をお話しいただきました。
今回の受賞作5作品は、忖度なしの選考。今後活躍するであろう新進気鋭の小説家の作品ばかり。
第1回の西條奈加さんや真藤順丈さんのように、本賞をステップにして直木賞作家が出るなど、注目の文学賞の一つです。
歴史時代小説『高望の大刀』しか読んでいなかったのですが、時代小説ジャンル外の4作品についても、細谷さんが紹介すると、どれも本当に読んでみたくなりました。
ちなみに『高望の大刀』も、平安初期を舞台に、これまで歴史小説ではほとんど描かれることがなかった桓武天皇の子孫・高望王を主人にしていて、文句なしに楽しめるエンターテインメント時代活劇です。
多くの文学賞が単行本での刊行作品のみを対象とする中で、上田朔也さんの文庫刊行作品が受賞したのもこの賞のユニークな点だと思います。
値上げの波が出版界を襲い、1,000円を超える文庫本も珍しくなくなり、単行本を経ないでいきなり文庫で刊行される作品も出ている時代ならではのことかもしれません。
ところで、この賞では作家ばかりでなく、担当編集者も、世に、ユニークで素晴らしい本を送り出してくれたとして、表彰していたのがとても良い試みで感動しました。
ベテランから、新進気鋭の作家まで、大集合
授賞式に出席されていて、中締めのスピーチをされた作家の植松三十里さんが、「小説家は競走馬であり、その鞍上にいるのは編集者で、両者がかみ合って初めて、良い作品が生まれる」「本日、細谷賞を受賞した作家は、日本ダービーの出走権を得たようなもので、さらに上を目指してますます精進してほしい」という趣旨のことを話されていたのが印象に残りました。
植松さんも最新刊の『家康が愛した女たち』をはじめ、4カ月連続で著書を出されるとのこと。もう、楽しみしかありません。
当日は、植松さん、細谷さんのほか、長年新刊をご恵贈いただいている鳴神響一さんにお会いできたことが本当にうれしかったです。
会場には、書評家・細谷正充賞の歴代の受賞者、森山光太郎さん(第2回『火神子』)、泉ゆたかさん(第2回『髪結百花』)、吉森大祐さん(第3回『ぴりりと可楽!』)をはじめ、谷津矢車さん、坂井希久子さん、美輪和音さん、中国歴史小説の大御所塚本靑史さん、ヘルハンドシリーズの青木杏樹さん、陸理明さんの姿もあり、大変に盛況でした。
ジャンルを超えエンタメ小説を盛り上げていこうという、多くの作家の先生にお会いし、パワーをいただきました。
20万冊の蔵書があり図書館のようだという細谷さんのご自宅を、私もいつか探訪したいと切に願っています。
【YouTube】17万冊蔵書の細谷正充邸探訪!! 令和元年「書庫を見る会」にイベントに参加
最後に、新型コロナウイルスに万全の注意を払いながらも、経済活動を続ける「ウィズコロナ」の時代に即した、感染対策に十分に配慮した、素敵な授賞式を開催された主催者・関係者のみなさまに、心より感謝申し上げます。
授賞式のお土産◆レスキューフーズ(和風ハンバーグライス:ホリカフーズ提供)、伊藤園のお~いお茶 ほうじ茶、『あなたの涙は蜜の味 イヤミス傑作選』(PHP文芸文庫)、『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』(中公文庫)、代々木八幡宮お守りと会報誌「文人墨客 第十号」
代々木八幡宮は直木賞作家の平岩弓枝さんの御実家で、ここにお参りするとよく増刷がかかる、出版人には験の良い神社だととか。
当日のお土産として、細谷さんが選者をつとめたアンソロジーを2冊いただきました。
細谷さんは、アンソロジー選者の第一人者で、これまでに50冊以上出版されています。
とくに売れているPHP文芸文庫のアンソロジーでは、選考作品の条件が厳しくて、毎回ご苦労をされているとか。
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『ヴェネツィアの陰の末裔』(上田朔也・創元推理文庫)
『銀狐は死なず』(鷹樹烏介・二見書房)
『神々の歩法』(宮澤伊織・東京創元社)
『マザー・マーダー』(矢樹純・光文社)
『高望の大刀』(夜弦雅也・日本経済新聞出版)