『十手魂「孫六」』|山田剛|角川文庫
山田剛(やまだたけし)さんの長編時代小説、『十手魂「孫六」』(角川文庫)をご恵贈いただきました。
著者は、2011年、「刺客―用心棒日和」で、第17回歴史群像大賞佳作を受賞し、改題した『大江戸旅の用心棒 雪見の刺客』で時代小説デビューし、以降、人情味たっぷりの主人公や、颯爽とした若侍が活躍する時代小説を次々と発表。
近作では、『人情出世長屋 てんやわんやの恩返し』も心を温めてくれる長屋小説としておすすめ。
本書は、そんな作者が満を持して取り組む取り組んだ、人情捕物小説です。
北町奉行所の同心・青江真作は、不運な事件により、妻の結衣を失った。自らの判断を責め続けた真作は、同心の職と家禄を返上する――。5年後、真作は、「孫六」と名乗り、神田相生町で四文屋を営みながら、十手を預かる身となった。ある日、田嶋屋の惣領が、女中殺しで捕らえられた。だが、死体の状態から、惣領が下手人とは思えない。さらに、田嶋屋に強盗一味からの襲撃予告があったことが判明し……。孫六の十手が唸る!
(『十手魂「孫六」』カバー裏面の説明文より)
序章「沛雨(はいう)」で、北町奉行所の同心青江真作は、激しく雨が降る中で、愛妻結衣を失います。
いくら悔いても取り戻せない、酷なつらい別れがありました。
それから五年、最愛の人を自身の拙い判断から失ってしまった、真作は同心のを辞めて、「孫六」と名を変えて、神田相生町で四文屋を営むかたわら、十手持ちになっていました。
書き出しを読んだだけでも、面白くなる雰囲気が満ち満ちている捕物小説です。
物語の感想は、あらためて紹介するとして、四文屋を少し解説します。
四文屋(しもんや)は、煮魚やてんぷらなどの総菜を、一皿どれでも四文で売る煮売屋のこと。四文は現在の価値でいうと百円ぐらいなので、百均(100円ショップ)の総菜屋版といったところになります。
これは、江戸時代、庶民の暮らしの中で、使い勝手のよい四文銭が流通し、銭が4の倍数で数えられることとも関係しています。
主人公孫六が営む四文屋〈柚子(ゆず)〉の店名にも、作者の思いが込められていて時代小説ファンに気になります。
柚子と聞くと、葉室麟さんの長編時代小説『柚子の花咲く』が思い出されます。
十手魂「孫六」
山田剛
KADOKAWA・角川文庫
2022年11月25日初版発行
カバーイラスト:遠藤拓人
カバーデザイン:原田郁麻
●目次
序章「沛雨」
第一話「償い」
第二話「竹光同心」
第三話「ちぎれ雲」
第四話「猫とご隠居と月踊り」
本文313ページ
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『十手魂「孫六」』(山田剛・角川文庫)
『人情出世長屋 てんやわんやの恩返し』(山田剛・角川文庫)
『柚子の花咲く』(葉室麟・朝日文庫)