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松吉とお栄が結婚!? しかしお栄には母親との確執が……

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『本所おけら長屋(十九)』|畠山健二|PHP文芸文庫

本所おけら長屋(十九)畠山健二(はたけやまけんじ)さんの人情時代小説、『本所おけら長屋(十九)』を紹介します。

シリーズ累計165万部突破! 読み始めると癖になる人気作品の最新刊第19巻です。
本所亀沢町にある、貧乏長屋「おけら長屋」の住人たちが巻き起こす、笑いと涙の珍騒動が、上質の人情喜劇や落語のように楽しめます。

江戸は本所の「おけら長屋」は、“お節介と人情”で名高い。腰的な住人が入り乱れて、毎日がお祭り騒ぎだ。“岡惚れの半の字”で知られる半次のもとに、いきなり嫁候補がやってきて……「ほろにが」、頑固な浪人と八五郎の意地の張り合いが思わぬ結末へと向かう「せんべい」、松吉と所帯を持つことになったお栄には、仲違いして家を飛び出したきり会わずにいる母親がおり……「はりかえ」など、四編を収録。

(本書カバー裏の内容紹介より)

第一話「ほろにが」では、江戸を代表する大店の絹問屋の、天下無双の箱入り娘、お静が、研屋の半次に惚れたことから大騒動が……。
お静は世間知らずのお嬢様で、本人に全く悪気はありませんが、行くところでは必ず騒動が起きます。
一方、半次は、「早呑み込みの半次」「わかったの半公」「岡惚れの半の字」といわれ、本所界隈で知らぬ者はいない存在です。
おけら長屋に住む万造と松吉に振り回される人たちは数知れませんが、その万松コンビを振り回してしまうのが半次です。

第二話の「ぜんあく」。本所石原町の帯問屋鶴屋の主人、伊太蔵のもとに、大坂の帯問屋中村屋の主・又右衛門が妻と娘を連れて江戸見物にやってきて逗留していました。
伊太蔵は、十年前に大坂に二年間の修業に出た際に、当時は身代を継ぐ前の若旦那の又右衛門と妙に気が合い、大坂では楽しい思い出ばかりでした。
ところが、又右衛門は番頭に騙されて店を潰して、大坂を捨てて江戸へやってきました。

「(前略)店が潰れたとき、わての心の中には、善と悪がいた。善はわてに囁いた。どんなに貧しくても、それがどんな仕事であろうと一生懸命に働いて、人様に迷惑をかけず、親子三人、仲よう暮らしていけと。悪はこう言うた。アホらしい。自分のことを善人などと思うて調子に乗りよって、こんなことになったんや。アホや。お前はアホや、とな……。さあ、はよ食べ。こんな上等な料理は、もう食べられんかもしれへんえ。さあ……」
 
(『本所おけら長屋(十九)』「その弐 ぜんあく」P.94より)

第三話の「せんべい」は、左官の八五郎と浪人大友平太郎の意地の張り合い、二人の掛け合いがエスカレートしていくのが面白く、やがてじーんと胸に残る人情話です。

「へへへ。まだ勝負はついちゃいませんぜ。ですがね、あっしは負けません。何で負けねえか教えやしょうか。それはね、あっしが貧乏長屋で暮らしてる町人だからなんでさあ。どう転ぼうが失うものなんざ何にもありゃしねえ。貧乏人は助け合わなきゃ生きていけねえんですよ」
 
(『本所おけら長屋(十九)』「その参 せんべい」P.189より)

第四話の「はりかえ」では、松吉が居酒屋三祐のお栄と祝言を挙げることに。
ところが、お栄には別れて暮らす母親との確執がありました。
祝言を前に松吉は母親と会うことになりました……。

今回も、松吉と万造の万松コンビをはじめ、浪人の島田鉄斎、後家のお染らおけら長屋の面々が動き出します。お節介の本領発揮の物語に、ワクワク感が募っていきます。
いつまでも浸かっていた居心地の良い、おけら長屋の魅力の沼にますますはまってしまいました。

本所おけら長屋(十九)

畠山健二
PHP研究所・PHP文芸文庫
2022年10月10日 第1版第1刷

装丁:田中善幸
装画:倉橋三郎

目次
その壱 ほろにが
その弐 ぜんあく
その参 せんべい
その四 はりかえ

本文297ページ

文庫書き下ろし。

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『本所おけら長屋(十九)』(畠山健二・PHP文芸文庫)

畠山健二|時代小説ガイド
畠山健二|はたけやまけんじ|時代小説・作家 1957年、東京都目黒区生まれ、墨田区本所育ち。 演芸の台本執筆や演出、週刊誌のコラム連載など幅広く活動。 2012年、『スプラッシュ マウンテン』で小説家デビュー。 2013年、『本所おけら長屋...