『拙者、妹がおりまして(6)』|馳月基矢|双葉文庫
馳月基矢(はせつきもとや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『拙者、妹がおりまして(6)』(双葉文庫)を紹介します。
著者は、2020年に、デビュー作『姉上は麗しの名医』で第9回日本歴史時代作家協会文庫書き下ろし新人賞を受賞した、時代小説界の期待を集める新星。
本所相生町に住まう御家人白瀧勇実と、妹千紘、白瀧家の屋敷の隣にある剣術道場の跡取り息子の矢島龍治。三人の若者の日常の出来事を描く青春時代小説の第6弾です。
旗本・井手口家の若さま、悠之丞は千紘にご執心のようだ。初日の出を拝んだ場で龍治も心を決め、率直な想いを悠之丞に打ち明ける。正々堂々とした二人を前に、勇実は妹の幸せのためにどうしたらいいか分からないでいる。そして己の恋路も宙ぶらりんのままだ――いくつもの他人の恋に接し、それぞれの手元の想いも形作られてゆく。江戸の日常の中に描かれる、揺れ動く心情、清々しい人々、人気書き下ろしシリーズ第六弾。
(『拙者、妹がおりまして(6)』カバー裏の内容紹介より)
文政六年(1823)の元日。
千紘は、旗本井出口家の若さま悠之丞に、屋敷の庭で初日の出を一緒に見ないかと誘われました。龍治と千紘に頼まれた兄勇実も同行して井手口家の屋敷で日の出を拝むことになりました。
悠之丞は、品行方正で学問に秀で、祖母思いの優しい若者。引っ込み思案のところはあるものの、近頃それを克服し、病弱な祖母が元気なうちに、千紘を妻にという話を進めたがっているみたいでした。
「唐突にどうしたのだ? 誰かに説教をしてくれと頼まれたのか?」
「いいえ。頼まれたわけじゃありません。俺が自らの意思で、若さまのお気持ちを確かめようと、こうして問うているんですよ」
「気迫に押されてしまう。まるで立ち合いをしているかのようだ」
「立ち合いだとするなら、俺のほうがずっと有利でしょうね。幾人もの人から話を聞いてあれこれ調べて、すでにまわりをすべて固めた上で、この話を持ち出してるんですから」(『拙者、妹がおりまして(6)』P.22より)
ちょうど一年前、龍治は、千紘を誘って愛宕山の初日の出を見に出かけながら、そこで近所の剣術道場の連中につかまりって、大失敗を演じていました。
(顛末は『拙者、妹がおりまして(三)』に描かれています)
失敗を重ねて、龍治が成長しているのに驚かされました。
龍治は悠之丞に、千紘のことが好きで、若さまに取られたくないとはっきり告げました。そのことを知らなかった悠之丞は嘆息しながらも、道理の通らぬ話の進め方はしないとこたえました。
勇実も率直に言った。
「兄としての立場で話をするなら、妹を巡って男二人が相論ずるのを聞かされるの複雑だ。が、白瀧家の当主の立場で言えば、信頼できる縁談が望めるのだから、ほっとしている」千尋がどんな道を選ぶのかわからない。勇実にできるのは、どうか千紘が傷つけられることのないようにと、祈ることだけだろう。
(『拙者、妹がおりまして(6)』P.26より)
勇実は、正月三日、手習所を開けておらず、寝正月を決め込んでいました。その昼下がり、亀岡菊香の弟貞次郎がやってきました。
今年で十五になった貞次郎は、元服も済ませて見習いで小十人組の仕事をしていました。勇実に、自分の見合いについてきてほしいという相談でした……。
本書では、連作読切の四話が収録されていますが、いずれの話にも、物語を彩る登場人物の「新しい恋」が描かれています。
いくつになっても、恋をしていたいと思わせる、キュンキュンする素敵な青春時代小説になっています。
読者の高齢化や固定化という課題を抱える文庫書き下ろし時代小説において、ライトノベルを楽しむような若者や女性の読者を開拓する、新機軸の書き下ろしシリーズです。
拙者、妹がおりまして(6)
馳月基矢
双葉社 双葉文庫
2022年7月17日第1刷発行
カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:Minoru
●目次
第一話 悩ましきは両手に花
第二話 厄除けの岡達
第三話 蝶と燕
第四話 卯の花の愛し人
本文246ページ
文庫書き下ろし
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『拙者、妹がおりまして(1)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(2)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(3)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(4)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(5)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(6)』(馳月基矢・双葉文庫)